特異的な貝類相が見られるマングローブ湿地において、カワザンショウ科は主要なグループのひとつです。日本のカワザンショウ科は世界でも屈指の多様性の高さを誇り、様々な環境で見ることができます。
一方、本科の貝類は研究が途上であることから未記載種も多く、特に南西諸島では学名が確定していない種が多いようです。
岡山大学学術研究院環境生命自然科学学域の福田宏准教授と沖縄県海洋深層水研究所の久保弘文元所長はこのたび、沖縄県の西表島と石垣島のマングローブ湿地の砂泥底に見られる貝類(ウラウチコダマカワザンショウ)を新種記載しました。
カワザンショウ科
カワザンショウ(川山椒)科の貝類は微小で地味な見た目をしていますが、実は多様性が高く非常に面白いグループとして知られています。
特に日本のカワザンショウ科は世界でも屈指の多様性を誇り、海、汽水、淡水、陸上、すべての環境に何かしらの種を擁しています。このような分類群は、全動物を見ても極めて珍しいといいます。
さらに、河口汽水域のマングローブやヨシ原を伴った湿地は多様で特異的な貝類相がみられますが、本科はその主要なグループのひとつです。
一方、カワザンショウ科は分類学的研究が途上であるグループでもあり、日本国内だけでも50種以上の未記載種の存在が指摘されており、特に南西諸島では学名や属が未確定の種が多いといいます。
また、近年は日本の内湾環境の急速な変質により棲家を奪われ、カワザンショウ科の多くがレッドリストに掲載されています。
西表島と石垣島に固有<ウラウチコダマカワザンショウ>
ウラウチコダマカワザンショウ(Ovassiminea hayasei)は沖縄県の西表島と石垣島に固有のコダマカワザンショウ属で、本属の現生種では最も北に分布しています。
本種が初めて見つかったのは1998年5月で、早瀬善正氏(ウラウチコダマカワザンショウの種小名は早瀬氏に献名)により西表島の仲間川から発見されました。
2003年11月には、故・山下博由氏が浦内川で採集した個体を福田准教授が受け取り検討。その結果、それまで日本で知られていなかったコダマカワザンショウ属の1種であることが判ったのです。
和名はこの時の調査報告書で提唱されました。
その後は福田准教授と久保元所長が石垣島で、同種の産出を確認。現時点で、本種の個体群は西表島の仲間川、後良川、浦内川、石垣島の名蔵、崎枝の僅か5か所のみで確認されています。
分布域が狭いコダマカワザンショウ属 リゾート開発の影響に懸念
現時点では5か所のみで確認されているウラウチコダマカワザンショウですが、タイプ産地に指定された浦内川河口のマングローブでは比較的広範囲で見られるものの、分布の総面積は非常に狭いとされています。
そのため絶滅のリスクが非常に高く、これまで未記載種にもかかわらず、環境省・沖縄県のレッドリストで絶滅危惧II類に分類されてきました。
また近年は、八重山諸島のリゾート開発が進んでおり、石垣島でもゴルフ場建設の計画が浮上しています。
開発用地の周辺にはウラウチコダマカワザンショウを含む様々な希少生物たちが生息しており、ゴルフ場建設によりこれらの生物たちへの深刻な影響が懸念されています。
小さな生物にも目を向ける必要がある
ゴルフ場建設の計画にあたってのアセスメント調査においては、本種の存在が見過ごされているほか、貝類相の把握と稀少性評価については誤同定等の大きな不備が見られるといいます。
今回のウラウチコダマカワザンショウの新種記載は本種の存在を多くの人々に知ってもらい、本種の保全に向けた取り組みにおいて極めて重要な意義を持つといえます。
(サカナト編集部)