近年、九州で増えているアジ科の魚にクロボシヒラアジという魚がいます。
クロボシヒラアジはアジ科マブタシマアジ属の魚で、従来は日本からの記録は少ない、珍しいものとされていました。しかし近年は、宮崎県の門川や贄波、鹿児島県東岸などの各地定置網などで時折漁獲されるようになった種です。
今回はそんなクロボシヒラアジを食した感想をご紹介します。
クロボシヒラアジを購入してみた
日本におけるクロボシヒラアジAlepes djedaba(Fabricius, 1775)は宮崎県志布志湾産の個体をもとに報告されたものです。
初報告された報文では標準和名は「クロボシマブタシマアジ」とされていましたが、日本産魚類検索第二版(2000)では「クロボシヒラアジ」の標準和名が採用されました(この標準和名採用の理由は日本産魚類検索第二版を参照のこと)。
ちなみに、この書籍は原則として日本産魚類の標準和名の起点である旨定められています(日本魚類学会 標準和名検討委員会より)。またそれ以前では本種の和名を「つまりまぶたあじ」とした文献もあります。
筆者とクロボシヒラアジとの初めての出会いは2009年。鹿児島県南さつま市笠沙で水揚げされた個体を漁師の伊東正英さんに送っていただいたのでした。このときは標本用として入手したもので、残念ながら食することはできませんでした。
それから11年の時を経て2020年のこと。Facebook上で知り合って長くお付き合いしていただいている鹿児島県の田中水産・田中積さんに案内していただき、購入することができました。
クロボシヒラアジの特徴
さて、我が家にクロボシヒラアジがやってきました。クロボシヒラアジの「クロボシ」とはおそらく鰓蓋上後方の黒色斑から来ているものと思われます。
この黒色斑の形状は個体により差があるらしく、もっと小さいものもいます。
体側上方に横帯がありますが、めだつものではありません。届いたときは写真で撮影したものよりももっと明瞭でした。
ただしこの横帯は個体差というよりも、その個体の感情などによって出るようなものなのかもしれません。側線は前方で大きくカーブしています。
尾鰭は鮮やかな黄色で、上葉の縁辺が黒色になります。ただし産地もしくは個体により色彩的な変異があるらしく、尾鰭上葉が全体的に黒っぽいものなどもいるようです。
なお、マブタシマアジ属魚類は日本からは3種が知られているものの、本種をのぞく2種、マブタシマアジとミヤカミヒラアジはいずれも日本ではまれな種とされており、マブタシマアジについて「いつか食したい」、という思いはあるものの、食用にできるような個体の入手はまだ叶っていません。
ミヤカミヒラアジは見たことさえないのですが、それでも宮崎県や鹿児島県、三重県尾鷲などからの記録があるようで、いつか入手してみたいと思っています。
クロボシヒラアジはマアジに似て美味い?
さて、いよいよクロボシヒラアジを食します。
「アジ」という名前は味がよいことから来ているとされています。今回はお刺身にしました。
その身の色彩はマアジなどに近く、食べる前から美味しそうに見えました。赤みはありますが、後述するオニアジほどではありません。脂も程よい感じにのっていました。
実際に食べてみると甘い感じがして、マアジと同じくらいか、それ以上に美味しいものでした。このほか塩焼きなどにしても美味しく食べられるものと思います。
どうやらクロボシヒラアジは近年は九州西岸において繁殖もしているらしく、小型の個体も獲れており、そのような個体は南蛮漬けや唐揚げなどでも美味しいでしょう。
なお宮崎沿岸では水揚げされ食用としてよく流通しているとのことです。
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