スーパーや居酒屋で魚を見ていると目につく「天然」「養殖」の文字。その表示は、該当の魚が自然で育った魚なのか、人の手によって育てられた魚なのかを示しています。
今回は海水魚の天然・養殖による味の違いなどについて、紹介していきます。
自然で培われた魚本来の旨味
広い海で泳いで育った天然魚は、身が引き締まっています。そして、さまざまな餌を食べて育ったので、肉の旨味や香りが強いのが特徴です。その魚が最も美味しく食べられる「旬」の時期には、程よく脂がのっていて食べ応えがあります。
また、天然魚は海中で過ごしているため、強い日の光を浴び続けることがなく、日焼けせず鮮やかでよい見た目をしていることが多いです。
味に癖がなく、皮の生臭さも養殖より少ないため、刺身や焼き魚で食べると美味しいです。旬の時期には脂がのり、どんな料理でも美味しく味わうことができます。
しかし天然の魚は、鮮度や味、栄養状態などをコントロールすることが難しく、さらには養殖の魚より寄生虫がいる確率が高いです。
人の手で育てる養殖魚は品質が安定している
養殖魚は、人の手で餌や住環境を管理することによって味や肉質が管理されており、品質も安定しています。漁獲が不安定な天然魚よりも、養殖魚のほうが鮮度が高いものを入手しやすいこともあります。そして、旬の時期以外も脂がのっており、まろやかな味が特徴です。
また、漁獲量が年々変動する天然魚に比べて、養殖魚は需要に合わせて安定した供給が可能です。併せて、天然魚に比べて値段が安いことも魅力のひとつです。
一方、養殖魚は泳ぐスペースが限られているため、身が十分に締まっておらず、刺身や海鮮丼など、魚の食感をシンプルに楽しむ料理には物足りないこともあります。しゃぶしゃぶや漬け丼など、よくのった脂を活かした料理で楽しむのがおすすめです。
なかには、養殖に向かない魚もいます。養殖できない大きな理由として、「餌や繁殖の条件などがよくわかっていない」「コストがかかる」のふたつがあります。
養殖できない魚の代表に、サンマが挙げられます。サンマは寿命が短いうえに、天然のサンマが大漁だった年には多くの養殖サンマが売れ残る可能性もあり、養殖するには大きな課題があります。逆に、養殖されている魚は、主に高値で取引されるものが多く、ブリやマダイ、カンパチ、クロマグロといった魚が代表です。
あらゆる課題を乗り越える漁業の多様性
養殖魚は品質の安定がメリットの一つですが、近年では養殖魚のブランド化が進み、地域に根ざしたブランド魚で地域創生に取り組む事例もあります。
ブランド魚による地域創生
例えば、愛媛県では「みかん魚」の養殖が盛んです。みかん鯛やみかんブリなど、さまざまなブランド魚が開発されています。地域に根差したブランド魚を開発することで、地域創生にもつながっています。
近畿大学水産研究所が開発した「近大マグロ」も有名です。近大マグロは1970年から研究が開始され、2002年に完全養殖が成功しました。同研究所は2023年10月、難しいと言われていたウナギの完全養殖の達成も報告しています。
養殖漁業と栽培漁業の違いは?
養殖漁業と似た漁業に、栽培漁業があります。一番大きな違いは、養殖漁業では魚を放流しませんが、栽培漁業では魚を海に放流するということです。
養殖漁業では魚を放流せずに卵から成魚まで育てますが、栽培漁業では、卵から稚魚になるまでの一番生存率が低い時期を人の手で守り、稚魚まで育ってから自然の海に放流します。放流された魚が成長してから、適正な時期に計画的に漁獲する漁法です。
栽培漁業では、放流した魚が成長するまで生息する環境を整備・管理することが重要になります。これによって放流した魚以外の生息率があがり、漁獲量の増加につながります。
持続可能な漁業としても関心が上がっており、栽培漁業を推進する企業や地域も増えています。
育ち方によってそれぞれの特徴がある
天然魚と養殖魚は、その生育環境や飼育方法などの違いによって異なる特徴を持っています。普段違いを気にしていなかったという人も、魚それぞれの特徴を生かしつつ、自分の好みや調理法などに合わせて食べてみてください。
(サカナト編集部)