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魚食普及の最前線 出前授業と情報発信で<魚食い>を増やす【魚食のこれから】

2011年の頃の統計から、魚食の消費量は肉食を下回り、現在も下降の一途を辿っています。我々の素晴らしい魚食文化は、これから衰退するばかりなのでしょうか……? そんな危機感を覚える一方で、これからの魚食の盛り上がりを感じさせる新たな風をほうぼうで見ることがあります。魚食に親しむために、「魚食の楽しみとは何か?」という根源的なところまで探っていきます。さあ、もう一度魚と触れ合ってみませんか?

今回は、一般社団法人大日本水産会が推し進める<魚食普及推進センター>の取り組みに注目。魚食普及推進センターの早武忠利事業課課長に話を聞きました。

魚食普及推進センターの取り組み

今、魚食普及推進センターが取り組む大きい柱のひとつに、小学校などでの出前授業があります。模型のカツオで一本釣り体験をしてみたり、漁業や環境についての座学をしてみたり。実際の鮮魚に触れる<鮮魚タッチ>や解剖実験など、食べること以外の活動も含めて、まずは魚に親しんでもらおうとしています。

なぜ親しんでもらうのか。まず魚を触ること自体に戸惑ってしまう方がいるからです。色も形もさまざまな触ったことがない魚をスーパーで買って食べることは、実は物凄くハードルが高い。そこでまずは触ることに慣れてもらうのが目的ですね。

鮮魚タッチで圧倒的な情報量を

鮮魚タッチでは魚の楽しいところ、色や形の理由を考えてもらって触ってもらい、その体験を通して、魚への抵抗を感じる前に好奇心や面白さを感じてもらいます。圧倒的な情報量で体験させることで、気持ち悪いとか、目が嫌だとか、そういったネガティブな気持ちよりも「きれい」「すごい」「面白い」といった気持ちが湧いてくるんですね。釣り人もその一瞬が楽しくて……釣れない日でも耐えられますよね。

鮮魚タッチは、魚などすべて準備して行きましたが、最近は近所の魚屋さんや給食の納入業者さんに相談して準備してもらいます。学校からの依頼に喜んでピカイチの魚が並ぶことも多く、次回以降は学校で手配・開催できる仕掛けをしています。

20年以上続けている〈イカの解剖教室〉は得意技で、イカさえあれば今からでもできます。導入でイカの絵を描いてもらうんですが、9割方ゲソ(足/腕)が下になります。ですが、(図鑑的表現としては)上に来るのが正解なんですよね。ふたつの目を前に描いてしまう人もいますが、それだと真後ろから捕食する魚が来ても気付けないから、横についてないといけない。そんなことをお話しながら解剖していくと、イカの構造が頭に描けるようになるんです。

深海魚のメヒカリは、お腹を開いて内臓を取ると真っ黒です。「お腹に入ったプランクトンが発光して目立ってしまうと、捕食する魚にメヒカリが狙われるから、カーテンのように隠すために黒くなっているんだよ。すごく大事な生きる戦略なんだよ」と解説すると、「黒いお腹が気持ち悪い」と言う子の見る目も変わってくれたりします。

そうやって生きざまである生態学、形態学なども楽しいですよと、自然科学が好きな児童が増えてほしいと丸魚をすすめています。

参加者の99%が魚を捌けるように

500世帯に対して、動画でさばき方を見てもらい、鮮魚ボックスを無料で送り、さばいてもらう、という企画を行ったことがあります。「腹はハサミで切って大丈夫ですよ、タチウオは切れ目を入れてねじればパキッと折れて塩焼きがおいしいです! アルミを敷けばグリルが汚れませんよ」といったお話を動画で紹介するんです。

この取り組みでは、アンケートの回答によると参加者の99パーセントが魚をさばけるようになりました。料理教室も見学含め数十回受け持ちましたが、終了時間に向けて、時間内に終わらない人は先生が手伝うので、結局さばけないまま帰ることになります。でも、家だと助けが来ないので、みんな何とかして、諦めない限りさばけます。やり方を覚えてもらえれば、一尾を買ってさばくのにも抵抗がなくなっていき、生産者も市場も元気になり、食卓が楽しくなるはずです。

我々の取り組みも無料のままでは続かないので、各地で継続するための有料化とプログラムの発信も考えています。一日で200尾の鯛を消費者に渡せるようなプログラムなどを全国に広げられれば、家庭で普通に丸魚がさばけて楽しめて、市場も元気になるので、私も身近にいい魚が入るから嬉しいです(笑)。

こういった取り組みを広めるためにも、魚食普及推進センターのホームページにプログラムをガシガシ掲載しています。鮮魚店で魚を調達してくれば家庭でもできることばかりです。そうやって持続可能にして、魚に触れられる機会や場所を効率良く全国に広げる取り組みをしています。

広がるサカナの情報

ホームページの閲覧数も、5年前は一日に20~30件くらいでしたが、今は7000〜8000件ほどで、年間で250万閲覧と桁違いに増えました。私がもう少し早く知りたかった内容を中心に500ページなので、読めば私より10年早くさばけるようになります。

ここ10年で動画視聴が普通になって、魚をさばく情報も飛躍的に広がっていて、さばきやすくなっています。私は20年ほど前に社会人になって、築地に通って、魚を買ってさばこうとしたけど、まだそのときは「この魚って、どうさばけばいいんだろう?」と思っても情報が見つかりませんでした。今はネットの普及で、レシピなんてもう、いくらでも出てきますし、誰でもさばき方を検索できます。中には、尖った面白い人もたくさんいて、サメ好きがサメをどんどんさばいていたり、耳石やタイのタイ(硬骨魚が持ち、縁起のが良いとされている骨)を集めている人なども見つかります。

ですから、肉食が魚食を上回って、平均的には食べる量が下回っていますが、情報を得やすくなったことで、新たに魚に触る人、知識の深い人がたくさんいるんです。そういう意味で、情報発信も手応えがあります。

何といっても、刺し身で食べられる鮮度の魚が市販されているというのは、世界的に見ると非常に珍しいです。さらに、そもそも水が安全に飲める国だって、世界に10ヶ国程度です。刺身グレードの魚と安全な水がある。やる気次第で今日からみんな<魚食い>になれる環境が整っている、とても貴重な島国に住んでいるわけです。ちょっとした機会に刺身を作ってみる気持ちが芽生えれば、あとは爆発的に広まるーーそういうプログラムを作っておけば、広げられるかな、という感触は出てきています。

食材の無駄をなくす

漁師さんたちがせっかく捕ってきてくれた魚を隅々まで食べてほしい。そうしてもらうには、どうしたらいいか?

例えばアジだと、食べるのは、いわゆるお刺身になる部分が大半だと思います。ただ実際には、中落ち、脳天、ほっぺ、肋骨の周りにも肉があるので、「スープで食べましょう」とすすめます。一尾からスープも作れば食費が安く済むし、1.5倍の身を食べることになるので魚を余分に捕らずにすみ、ちょっと環境にもイイコトになり、食卓が楽しくなるはずです。「一尾の調理が、お得で嬉しい気分になる」と伝えたいですね。

甘エビやボタンエビの味噌、私はあそこが特に美味しいと思うんです。お刺し身グレードのものを買って来たら、背わた、胃袋、殻、頭のツノ、エラを取って、すべて食べてください。胃袋抜きは手間がかかるのでお店では出せないので、食べるなら自分で自宅に限る方法です。エビ味噌好きなら手間と感じないことを保証する美味さです。私は冷凍エビを常にストックしています。

食費と手間を考えると、魚を3、4尾安く買ってきたときは、下処理して氷と一緒にトレーに入れて、凍らせると、氷が表面をガードして劣化しないので数ヶ月は保存できます。流水解凍して煮付けにしたり、買い出しの手間が省けて便利です。

腕が上がると刺身も作りますよね。例外的ではありますが……すだて漁体験(干潟に網を仕掛け、潮が満ちて魚が網に入り、潮が引いたとき網に入った魚を捕る伝統漁法)でコノシロを50尾くらい持ち帰ったときは、お刺身用に酢締めにした状態でチャック袋で保管しておくと流水2分ぐらいで解凍できるので、いつでもお刺身が食べられます。

私の家の冷凍庫には、6、7枚は常にあるので、料理を用意しながら「もう一品欲しいな」と思ったら、すぐに解凍します。それと、冷凍とすると寄生虫も心配ないので、そういう意味でも冷凍は初心者向けでもあるのかなと思ったりしています。

丸魚を買う

家で食べるのであれば、カッコ良さは重視しなくてもいいんです。サバの煮付けを作るにしても、ヒレなんて邪魔なだけなので、最初にハサミで切っちゃうことを推奨しています。安全に、怪我せず、楽チンにさばいてもらいたい。そうやって自宅で魚介を食べる楽しみを増やしていきたいですね。

お刺し身をお造りで買うと、量にもよりますが、600円くらいはします。でも丸魚で例えばアジであれば、一匹200円ほどで済みます。丸魚は手間がかかる分、人気がないので安いんです。切り身と比べると半額から5分の1くらいのイメージでしょうか。しっかり食べれば経済的にもSDGs的にも良いという話は小学校でも言っています。

食材の無駄をなくすことは、お得になるというだけでなく、魚資源を守ることにもつながります。刺身として100グラムを取って、頭などを50グラム捨てているとすれば、0.5匹分のタンパク質を一匹からさらに得ることができますよね。そうすると、今まで300万匹捕っていたアジが、200万匹で済むかもしれないし、そうすると海の資源を守ることにもつながります。100万匹のアジを余計に捕らなくてよくなるんです。

アジに限らず名前が知られていない魚たちも利用することで全体として無駄をなくし、食卓で気持ち良く魚を食べてほしい。そういう中で、単純に「もっと魚を食べましょう」と言うより、無駄なく食べる話も重要であると感じて、今の活動を続けています。一人一人がそういった取り組みをすることで、地球環境を良くすることにつながるなら、ちょっと嬉しい気分になりますよね。

魚食の楽しみ

魚食の魅力は、魚の種類だけ食の豊かさにつながることではないでしょうか。

日本は、良い魚が手に入りやすい環境ですから、ぜひいろいろ味わってもらいたいですね。活魚のタイが捕れて、当日締めたものが手に入るような、世界一の魚が流れるルートがあるんです。魚の国日本に住んでいる方は、ちょっと足を伸ばしたり、その魚をスーパーで予約する人が増えると、そのスーパーのレギュラーにもなるはず。一食3万円のお店に出ているのと同じ魚が、予約したら、身近で安く買えるかもしれない。美味しさは、さばく人の腕もありますが、いい魚が近くにいるならチャレンジしてほしいところです。

天然と養殖、活け締めと浜締めで硬さと旨味が違うけれど、どちらが好きかとか、違いを感じて、自分の好みを探すのもおすすめです。魚たちは本当に奥が深いんです。楽しみの振り幅が広すぎて、どうしていいのか分からないという人にも、今日から楽しめることがあります。

ブリを柵で買ってきて、半分はその日のうちに刺身で食べます。もう半分は次の日にまた切って食べます。一日分、味と柔らかさが違うハズなので、どちらが好きか試してみてください。お寿司屋さんも、それぞれの旨味をいつどうやってお寿司に乗せるか考えたりしているんです。これが楽しめるようになると、次は活き締めのタイを買ってみて一番好きなタイミングを探したりできるし、魚の部位による違いやその生態的な意味まで見えてきます。そうなると、楽しくなりますね。簡単なのでおすすめです。

いろいろなサカナを

もうひとつは、聞いたことがない魚を見かけたらチャレンジすること。以前、私が未利用魚と言われるツバクロエイ(トビエイ)を7キロ持って帰ったことがあります。どうやって食べればいいかいろいろ考えました。刺し身でもとても美味しかったし、煮付けでもソテーでも美味しかったです。レシピはネットに転がっています。買ってから考えても間に合います。好奇心を持って新しい食材を食べると、世界が広がりますよ。

日本は南北に広くて、いろんな漁業があって、いろんな魚種が捕れます。そんないろんな魚種の中でも、最高のものが市場にそろえられます。お寿司屋さんはピカイチの原料を使って、自分の腕を磨けるんですよね。漁師や市場の努力によって、魚の品質がしっかり保たれているからこそです。

あと、有名な魚ばかりではなく、国産の魚こそ目を向けて食べていただきたいです。国産の魚を選ぶと、漁師や加工業者にお金が回ります。そうすると工場で新しい機械を導入できます。そういった意識を持つと、「1円でも安いものにしたい」というところから離れて、住んでいる国をどうしていきたいかが見えてくるかもしれません。

我々の食環境が今後どうなるかは、皆さんが何を考えて、何を選んで買ったか(食べて応援したか)にかかっています。そんな目線からも魚を食べていただきたいです。

【追記】2023年11月14日に早武さんの著書『ハヤタケ先生の魚食大百科』が刊行。魚食の楽しみを追求した本で、思わず「なるほど!」となる、海と魚のお話から、さばき方、食べ方、遊び方までを網羅しています。普段からおいしいおサカナを食べたい人は、ぜひチェックしてみましょう!

「みなさんを幸せにするコト・モノは身近にとてもたくさんあって、その1つが魚です。楽しむことで、食卓の笑顔を増やしたい!」(早武忠利)


https://www.schoolpress.co.jp/topics/item/c-788_1.html

※本記事は『サカナト』創刊準備号に掲載された記事を再編集したものです(一部追記あり)。
※画像提供:魚食普及推進センター

(サカナト編集部)

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