いつかは行ってみたいと思う水族館や憧れの水族館はありますか?
筆者には、ずっと行ってみたい水族館がありました。
それが、鹿児島県鹿児島市にある「いおワールドかごしま水族館」。水族館に関する本や、水族館好きの人たちと話をする中で高頻度で名前が挙がるのが、この水族館です。
研究活動が活発で、レジャーとしてだけでなく、研究・学習を重ねる博物施設としての意義を追求している水族館のひとつでもあります。
筆者は、学生時代に『ジンベエザメの命メダカの命:水族館・限りなく生きることに迫る』(信山社サイテック)という本を読んで感銘を受けました。その本の著者は同館の元館長なのです。このような縁から、ずっと行ってみたいと思っていたのです。
そんな憧れの水族館へ訪問してきたので、今回はその様子をレポートします。
東京からかごしま水族館へ!
東京から鹿児島には、飛行機で行きました。所要時間はおよそ2時間です。
鹿児島空港からは鹿児島市内へ向かう高速バスを使い、鹿児島中央駅へ。そこから路面電車で「水族館口」という停留所に向かいます。
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鹿児島市内では、路面電車がたくさん走っています。本数も多く、値段も比較的安価で乗りやすかったです。
停留所から水族館までは徒歩で移動。桜島へ向かうフェリー乗り場を抜けた先に、いおワールドかごしま水族館があります。
道中には案内看板があるので、迷わずに行けました。停留所から歩いて10分~15分ほどで水族館の前に到着します。
いざ、いおワールドかごしま水族館へ!
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チケットを購入して、いざ入館です。
入ると目の前に大きなエスカレーターがあり、ここが入り口。暗いエスカレーターを登っていくと、「海の中の世界にこれから入っていくんだな」という感じがしてワクワクします。
ちなみに、山口県下関市の「市立しものせき水族館 海響館」や東京都江戸川区の「葛西臨海水族園」など、エスカレーターを使って館内に入ったり、順路にエスカレーターがあったりする水族館は他にもいくつかあります。
早速お出迎え! 黒潮大水槽
入って早速、水族館の目玉でもある<黒潮大水槽>が迎えてくれます。
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ジンベエザメはもちろん、カツオ・キハダなどの回遊魚もたくさん飼育されており、彼らが高速で泳ぎ回る姿も圧巻です。
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体がキラリと光るととても眩しくて、居合わせた子どもたちは回遊魚たちに夢中になっていました。
わかるよ、全部かっこいいよね。
鹿児島・枕崎港はカツオの水揚げ量が多い
いおワールドかごしま水族館で展示しているカツオは、毎年8月頃に捕獲する幼魚だそうで、黒潮水槽自体が地元・鹿児島らしさのある展示になっています。
カツオは旬が2回ある魚で、獲れる時期によって呼び名が違います。4~5月の春に獲るものを「初鰹」、9~10月の夏秋頃に獲るものを「戻り鰹」と呼びます。
カツオは鹿児島付近を流れる黒潮に乗って東北方面の親潮を目指していくという生態なので、鹿児島で獲れるのはほとんどが4~5月に獲れる「初鰹」です(ちなみに初鰹は「上り鰹」とも呼ばれています)。
初鰹はまだ脂肪分も少なく、引き締まったプリプリの身が特徴。脂の乗った「戻り鰹」よりも加工に適しているので、鹿児島では鰹節の生産が盛んです。
東北地方や関東産の鰹節に対して、鹿児島や四国周辺の鰹節が“上物”とされるのはこのようなカツオの生態も関係しているんですね。
地域ならではの水産加工品や名産品といった角度からも生き物の姿を知ると面白いですよ。
地元鹿児島のお魚たちが続々!
順路を進んでいくと、鹿児島ならではの魚が続々と登場します。
見たことのない、紫色の海老が岩に隠れていました。奄美伊勢海老(アマミイセエビ)はその名の通り、奄美大島をはじめとした鹿児島以南で見られるそうです。
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写真だと影で隠れてしまっていますが、実物をみると結構明るい紫色でした。
こんなに鮮やかなイセエビは初めて見たので驚きました。
最も印象的だったウミヘビ
そして筆者的に一番印象に残った展示が<ウミヘビ>です。
他の水族館でウミヘビを見たことはあるのですが、ここまで大きなウミヘビは初めて見ました……!
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写真だとやや分かりにくいですが、とても大きくて、びっくりしました。「これ、海で会ったらどうすればいいのだろうか……」というくらいに。
向かって泳いでくるウミヘビの首根っこを素手で掴んで危機を回避する……という動画を見た事があるのですが、実物を見るとだいぶ太く、掴める気が全くしません。
鹿児島湾の名産・マダイ
他にも、マダイがメインの水槽がありました。実は、マダイも鹿児島湾の名産の一つです。
展示パネルには、鹿児島湾で2月中旬から3月頃にかけて、産卵のために湾口部にやってくるタイを狙う「入りタイ漁」が紹介されていました。
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鹿児島湾は藻場が発達しており、餌となる生き物も多いので、絶好の「タイの幼稚園」になっているといい、実際に大型個体も多く漁獲されるといいます。
展示されているマダイもとても大きかったです……!
<ハオリムシ>だけの展示エリア?
一見、木の枝や海藻にも見える展示エリアがありましたが、これはサツマハオリムシというゴカイの仲間です。
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口や胃がない代わりに、体内で飼っている細菌が栄養を生み出します。栄養のもとは、なんと硫化水素だそう。
鹿児島湾は非常に深い海になっているのですが、桜島をはじめ火山活動が活発で、海底温泉があります。
海底温泉の周辺は硫化水素が豊富なため、こうした生きものが生息していることも鹿児島湾の特徴と言えますね。
ハオリムシと真剣に向き合う姿に感動
水槽の周りには、ハオリムシの説明パネルがズラリと並びます。
そして、筆者が特に感動したのが、クジラの骨を使用してサツマハオリムシの種苗採取に取り組む、鯨骨を使用した展示です。
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ハオリムシをここまで真剣に展示している水族館は、他にないのではないでしょうか。説明も充実しており、とても勉強になりました。
鹿児島にちなんだ展示が多数
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他にも、館内では鹿児島にちなんだ展示が多数ありました。
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終盤にはマングローブの展示もありましたよ。
湾口部から北薩の海、そして川まで……広く鹿児島の水の世界を体験できました。
水族館を飛び出して……青空イルカウォッチング
水族館を出ると、鹿児島湾とつながる水路があり、のぼりには<青空イルカウォッチング>の文字があります。
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プールとこの水路がつながっており、イルカが自由に行き来できるようになっているそうです。
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水路でちょっとしたジャンプや芸を見せてくれることもありました。青空の下でジャンプするイルカは、距離が近くて迫力がありました。
ちなみに、イルカが飛び出してくる場所は、イルカ次第なのだとか。
なお、この水路の石積みになっている部分は、防波堤として明治時代に整備されたものがそのまま残っているとのことで「土木遺産」にも認定されています。
今回、鹿児島を訪れる中でも、歴史を感じられるような建物や遺跡を街中で見かけて印象的だったのですが、まさか水族館にまでこのような遺産があるとは驚きです。
必見!<オリジナル本>をお土産に
水族館の出入り口付近にはお土産屋さんがあります。
こちらではいおワールドかごしま水族館の職員がまとめた、鹿児島湾の魚や鯨類についてまとめたオリジナル本などが販売されています。
水族館好きの人からは「必読!」と評判の良い本を筆者も購入。実際に鹿児島湾に繰り出して鯨類を観察した記録や、水族館内での飼育経験などがまとめられており、写真も豊富で読むのがとても楽しい本でした。
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なお、現地以外にオンラインショップでの販売もあるようです。
館内最後にあるのは考えさせられる水槽展示
さて、館内を順路通りに進むと、最後に一つの水槽がありました。
水槽名は「沈黙の海」。
青すぎて、水が入っているかどうかも分かりません。
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このような水槽があることは事前に知っていたのですが、一通りの展示を見た後にこの水槽をみると、ゾッとしました。
水槽の中は「無」。何もいません。青白く光る水槽は、異様な雰囲気を纏っていました。
水族館に行けば、たくさんの生き物がいる。それが当たり前になっていますが、本物の海、自然環境の海は今どうなっているのか。
水族館で見る景色は、あくまで水族館という人工的に整えた海の景色。同じような綺麗な景色は、果たして今現在も、現実の海で見ることができているのか。
見たり、獲ったり、食べたりと、生き物たちから受ける恩恵を、私たちは彼らにも返せているのか。全く違う世界でも、互いの生活は繋がっているのだと、私たちは理解して生きることができているか。
博物施設として分類される、水族館としての在り方を改めてこの水槽で示されたような気がします。
いおワールドかごしま水族館のテーマは、「生きることに限りなく迫る」だといいます。
ただ綺麗、かわいい、かっこいいで終わらせず、ひとつひとつが生き物の命であることを再確認しつつ、改めて水族館を回ると、また違う気持ちで展示を観察することができました。
丸一日楽しめる水族館!
いおワールドかごしま水族館の充実した展示を前に、筆者は丸1日、時間を使ってしまいました。
本州に住んでいるとなかなか遠い場所ではありますが、ぜひ一度は行ってみてほしいです。
そして、鹿児島に訪れたら、ぜひ仙巌園にも行ってみてください。桜島の素敵な景色と、日本らしい自然風景が詰まった庭に癒されますよ! ぜひ観光も一緒に楽しみましょう。
(サカナトライター:moka)