外来種というとチャネルキャットフィッシュやブルーギルなどを思い浮かべますが、我々の目では見ることが難しい、寄生虫にも外来種がいるのをご存知でしょうか?
例えば、ウシガエル斜睾吸虫(Glypthelmins quieta)は北米原産の吸虫ですが、ウシガエルとサカマキガイを宿主として日本で生存しています。
東邦大学、水産研究・教育機構水産技術研究所、日本大学なその研究グループは新たな外来種の寄生虫が利根川水系の在来種に寄生していることを明らかにしました。
寄生虫にも外来種がいる
現在、日本の内水面にはチャネルキャットフィッシュやブルーギルなどをはじめとする、様々な外来種が生息しています。
外来種問題では比較的目に付きやすい生物たちが取り上げられますが、実は生物の体内に住む寄生虫にも外来種がいるのです。
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外来寄生虫は主に宿主と共に侵入するケースが多いと考えられており、実際にウシガエル斜睾吸虫の侵入経路はサカマキガイの持続的な導入の可能性が高いとされています。
一方、寄生虫は生物の体内に住むため、宿主の外見で区別することが困難であり、外来寄生虫が日本に侵入した経緯を把握することができないのが現状だそうです。
利根川水系の<腹口吸虫>
かつて、日本に生息していなかった腹口吸虫も、1999年には淀川水系に侵入し定着したことが知られています。
この腹口吸虫は中国大陸などを原産とするカワヒバリガイが、シジミの種苗に紛れて放流されたことにより侵入したと考えられているようです。
さらに、2019年には霞ヶ浦など利根川水系でも腹口吸虫の仲間(尾崎腹口吸虫)が侵入したことが知られています。
正体は日本から侵入報告のない寄生虫
2019年から寄生虫調査を行ってきた研究グループですが、2022年になってタモロコなどの淡水魚から見慣れない寄生虫が出てくることに気づきました。寄生部位である鰭やその基部には黄色の虫体が確認されています。
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この寄生虫(成虫)の形態を調べたところ、まだ日本から侵入報告のない中国大陸原産の腹口吸虫であることが明らかになったのです。
加えて、この吸虫に有効な学名がなかったことからDollfustrema invadensとして新種記載されました。種小名のinvadensは本種が日本に侵入した(invaded)外来種であることに因み、和名は「ドルフス腹口吸虫」と命名しています。
本種は尾崎腹口吸虫に続き、利根川水系における2例目の侵入例となりました。
利根川水系における<ドルフス腹口吸虫>の生活史
今回の研究ではDNAを用いた調査の結果、2021年のサンプルからドルフス腹口吸虫が出現していることが判明。さらに利根川水系におけるドルフス腹口吸虫の生活史も明らかになっています。
まず、スポロシスト幼虫がカワヒバリガイに寄生し、スポロシスト幼虫はセルカリア幼虫と呼ばれる感染ステージを水中に放出します。
放出されたセルカリア幼虫はヌマチチブやヨシノボリ、ブルーギルなどに経皮感染し、魚の組織でメタセルカリア幼虫に発達。この幼虫はしばらくすると成虫に成長しますが、感染した魚がチャネルキャットフィッシュに食べられても、腸内で成虫になることが分かりました。
この成長した成虫は産卵し、水中へ放出された卵が再びカワヒバリガイに感染します。
外来種が主要な宿主になっている
利根川水系ではこのような生活史を送るドルフス腹口吸虫ですが、スポロシスト幼虫の時は外で特定外来生物るカワヒバリガイを宿主とし、同様に特定外来生物であるチャネルキャットフィッシュは本種の主要な宿主となっていると考えられています。
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つまり、ドルフス腹口吸虫の生活は特定外来生物の貝類、魚類によって支えられており、その中でヌマチチブやヨシノボリ類等の在来淡水魚への感染を引き起こしていることが判明しました。
ドルフス腹口吸虫の病害性はまだ不明ですが、外来寄生虫は在来種への病害性が高い傾向になることら、在来魚への影響が懸念されています。
まだ利根川水系にしか侵入していない
中国大陸と日本列島は海で隔てられていることから、ドルフス腹口吸虫は人為的に持ち込まれたと推測されいます。
また、本種は2020年に個体群を拡大したと考えられていますが、この時期に大陸から利根川水系へカワヒバリガイが直接侵入した記録がないようです。一方で、この頃にカラドンコ等の淡水魚が大陸から直接持ち込まれた可能性があり、これが侵入要因の可能性と考えられています。
現在、ドルフス腹口吸虫は利根川水系にしか侵入していません。しかし、宿主となるカワヒバリガイや魚類は各地に生息しています。
魚の放流してはいけない理由はいくつかありますが、このような寄生虫を拡大させないためにも動植物の放流は絶対に行ってはいけません。
(サカナト編集部)