和歌山県白浜町にあるアドベンチャーワールドは、沿岸生態系の回復を目的に、パンダが食べ残した竹を活用してアオリイカが卵を産む場所をつくる取り組みを2022年から続けています。
2024年度の活動では、計64基の竹製産卵床を白浜町日置川エリアにある伊古木漁港に設置。その大半の産卵床にアオリイカの産卵が確認されたとのことです。
さらに、竹の表面には海藻や小型の生物が付着しており、生物が増える基盤としての可能性も示されました。

アオリイカの産卵床をつくる理由
近年、海水温の上昇や藻類を食べる生物の分布が拡大していることで白浜の海の生態系が変化し、アオリイカの産卵場所となる海藻類が減少。一方、里山では放置竹林の造花が問題となっており、適切な管理が求められています。
アドベンチャーワールドでは、竹を伐採してパンダの食事として活用してきたといいます。しかし、パンダは竹の新鮮な枝葉の一部しか食べず、幹や摂餌後の枝はが残ることが新たな課題となりました。
そこで、食べ残した竹を束ねて海底に沈めることで、アオリイカの産卵床や小型生物の生育基盤として活用する取り組みを2022年より開始したという経緯です。
この活動は、自然環境の保全と地域社会の連携を強化するプロジェクトとして継続的に進めているといいます。
アオリイカの産卵場所64基を設置
2024年6月26日から11月9日の間、伊古木漁港にパンダの食べ残した竹を活用したアオリイカの産卵場所64基を設置。設置後は定期的に潜水調査及び竹のサンプリングを実施したそうです。

また、地域の中学生が参加する環境学習プログラムの実施や京都大学白浜水族館でのアオリイカの卵の展示を実施。加えて、ふ化の過程の一般公開やふ化後の稚イカの放流、竹に着生する藻類や小型生物の種類や数を記録し、生態系への影響を分析するなどさまざまな活動・調査が行われました。
アオリイカの産卵を確認!
設置した産卵床では、設置した64基の大半からアオリイカの産卵を確認されました。
京都白浜水族館で展示した卵からは、2641匹の稚イカがふ化。京都大学白浜水族館での展示期間中には2万人弱が来館し、多くの方が活動に触れることのできる機会となりました。

また、竹にはシワヤハズ、タマイタダキなどの海藻類を確認。このことから、竹は海藻の成長基盤となることが確認されました。
甲殻類、ゴカイ類、巻貝類の卵塊も確認
さらに、ワレカラやフジツボといった甲殻類、ゴカイ類、巻貝類の卵塊も確認できたそう。

海藻が増加することにより小型生物の生息数が増加し、生物多様性の向上が期待されるといいます。
今後の活動の展望は?
近年の研究によると、磯焼けの原因とされる藻類食性魚類の稚魚をアオリイカが捕食しているとのことです。
アオリイカの産卵が確認されたことで、将来的にはこの生態系のつながりが作用し、海藻の元素湯を抑える一助となる可能性も考えられます。

また、竹が海中で徐々に分解される過程で、その堆積物を餌とする巻貝が集まっている様子も確認されています。
これにより、竹が小型の生物の一時的な生息基盤として機能するだけでなく、分解された有機物が海の栄養循環にも影響を与える可能性が提示されました。
アドベンチャーワールドを運営する株式会社アワーズは、「今後も調査を続け、竹を活用した生態系回復の可能性をさらに探求していきます」とコメントしています。
※2025年3月4日時点の情報です
(サカナト編集部)