毎週日曜日・午前7時45分〜NHK総合テレビで放送している『さわやか自然百景』は、日本各地の自然の特徴と魅力を4Kカメラで撮影し、発見と感動の旅に視聴者を招く番組です。
NHKはこのたび、襟裳岬でゼニガタアザラシの出産シーンの撮影に成功したといい、9月15日(日)の同番組でその様子が放送されます。
20年以上アザラシの研究をしている東京農業大学生物産業学部の小林万里教授によると、国内のテレビカメラがゼニガタアザラシの出産シーンを撮影したのは初めてでないか、とのことです(貴重映像!ゼニガタアザラシの出産をテレビカメラが捉えた さわやか自然百景「北海道 襟裳岬の岩礁」9月15日放送-NHK北海道)。
ゼニガタアザラシの出産をテレビで観察
北海道の南側に突き出た襟裳岬では、年中強い海風が吹き、海流が岬の岩礁へとぶつかります。潮は豊かな魚介類をもたらし、シノリガモやカモメを育みます。
岬に定住しているゼニガタアザラシは、多くが5月の大潮の日に出産。アザラシの赤ちゃんは生まれてすぐに泳ぎはじめ、親となったアザラシは母乳を与えるといいます。
9月15日の放送では、襟裳岬にすむ生き物たちと、ゼニガタアザラシの出産・子育てを通して、野生の命の営みを観ることができます。
野生のゼニガタアザラシの出産シーンが見れるのは希少
取材協力者である、東京農業大学生物産業学部の小林万里教授は、「私自身、野生のゼニガタアザラシの出産は、たった一度だけしか見たことがありません。しかも最初からではなく、最後の産み落とされる瞬間だけでした」とコメント。テレビカメラが出産シーンを押さえることの希少性がよく分かります。
また、ゼニガタアザラシの出産を観察するのが難しいのは、いくつもの理由があるとし、「体の色が岩とそっくりの保護色であること、天敵のワシなどを避けるように薄暗い明け方や夜中の出産が多いこと、安産でごく短時間のうちに出産が終わってしまうこと、たいていお母さんの頭が海の方を向いているためお母さんの影になり出産の様子が見えないこと、など多くの困難な条件があり、なかなか出会うことができません」と説明。「国内のテレビカメラがゼニガタアザラシの出産シーンを撮影したのは初めてではないかと思います」としています。
ゼニガタアザラシは日本に唯一定住するアザラシ
ゼニガタアザラシは、食肉目アザラシ科アザラシ亜科ゴマフアザラシ属に属する小型のアザラシ。もっとも分布域の広い鰭脚類のひとつで、北半球各地の湾口や河口に生息します。生息地域に応じて5亜種が認められています。
日本沿岸で唯一定住しているアザラシでもあり、約1000頭が北海道の襟裳岬で生活しています。
身体には斑模様があり、これは砂地や岩などさまざまな色や物体と同化して見え、カモフラージュの役割を果たしています。この斑模様が銭のかたちに見えることが名前の由来です。
なお、体色と模様は生息する緯度によって大きく異なるそうで、日本に定住するアザラシは黒色部分が大きいといいます。
アラスカ以南の地域に生息するゼニガタアザラシの赤ちゃんの白い産毛は、母親の体内のなかで抜け落ちてしまい、大人と同じような黒っぽい体色で生まれてきます。岩場で出産するゼニガタアザラシは、黒っぽい模様であるほうが天敵に狙われにくいという利点があるそうです。
ゼニガタアザラシの子どもは、鰭脚類のなかでも例外的に、産まれてすぐに泳ぐことができます。生まれて間もない子どもが泳ぐときは母親の首にしがみつき、離乳しはじめるまでの30日間は母子で多くの時間を共に過ごすのだそう。
小林万里教授のコメントの通り、ゼニガタアザラシの出産シーンはなかなか出会うことのできない貴重なシーンです。テレビで観ることができるのはまたとない機会です。
(サカナト編集部)
参考文献
水口博也(2021)、世界で一番美しいアシカ・アザラシ図鑑、創元社