地球には、背骨(脊椎)をもたない無脊椎動物が、約100万種以上暮らしています。ヒトを含む脊椎動物は、およそ6万種。その差は、圧倒的です。
『海のちいさないきもの図鑑』(むせきつい屋(2025)、西東社)は、そんな多様で豊かな無脊椎動物たちを主人公にした一冊です。
著者のむせきつい屋さんは、1997年生まれ、神奈川県出身。北里大学大学院で海の無脊椎動物を研究してきた経歴の持ち主です。
生物採集や乗船調査のなかで出会った、ヘンテコな生きものたち。その面白さをもっと多くの人に伝えたいと、一念発起。自身で描いたイラストとともに、SNSやイベントを通じて生きものの魅力を発信し続け、多くの“生きもの好き”の共感を集めています。
本書は、そんなむせきつい屋さんにとって初の商業出版となる図鑑です。
全4章構成で、クラゲをはじめとする刺胞動物(有櫛動物)、タコやイカなどの軟体動物、エビやカニといった節足動物、そしてウニやヒトデなどの棘皮動物まで。海の無脊椎動物たちが幅広く登場します。
好奇心をくすぐる約60種のヘンテコな生きものたち
本書の魅力は、イラストと写真、そして漫画が一体になった構成にあります。
むせきつい屋さんによるポップで可愛らしいタッチのイラストに加え、実際の生体写真、さらに「骨なし4コマ劇場」と題した4コマ漫画まで収録。読んで笑って、理解が深まる仕掛けが詰まっています。
ベニクラゲ(提供:PhotoAC)たとえば、ストレスがたまると若返るベニクラゲには「漂う不老不死」といったキャッチコピーが添えられ、一見してその不思議さが伝わるのも面白いところです。
図鑑には、植物のような見た目なのにウニやナマコ、ヒトデと同じ棘皮動物でひらひらと泳ぐウミシダや、まるで昆虫のような姿をした甲殻類・ウミクワガタ(著者の“推し”の生きもの)など、見る人の好奇心をくすぐる約60種のヘンテコな生きものたちが顔をそろえます。
どうしてもその“見た目”に注目しがちですが、そこには同じくユニークな“生きる工夫”が隠れています。それぞれの生態をやさしい言葉で紹介し、図解や身近な“たとえ”を交えながら、自然と理解が深まるよう工夫されているのも本書の特徴です。
生きものの大きさを示すのに、横に同じくらいの物のイラスト(例:5~10mmのベニクラゲの横にキャンディ)が添えられていて、わかりやすすぎて思わず笑ってしまいました。
“図鑑”でありながら、“読みもの”として楽しめる。子どもにも、大人にも、無脊椎動物の入門書としておすすめしたい一冊です。
知るほど、惹かれる“ほねなし”たちの世界
イトマキヒトデ(提供:PhotoAC)「楽しい」「かわいい」だけで終わらず、どうしてそんな形をしているのか? どんな環境で生きているのか? むせきつい屋さんの解説は、現場研究での経験を通して得たリアリティに根ざしながら、同時に「この面白さを知ってほしい!」という熱意にあふれています。
クラゲやサンゴ、ウニやヒトデ──どれも小さく、目立たない存在かもしれません。けれど彼らの生き方を知ると、海という場所がいっそう豊かに感じられる。そして同時に、まだまだ分からないことだらけなのだということにも気づかされます。
知れば知るほど、どんどん惹かれていく、“ほねなし”たちの世界。きっとこの中に、あなたの“推しの無脊椎動物”が見つかるはずです。