「イルカ」と聞くと、水族館のショーなどで躍動する姿や、野生でもボートに近づいてくる人懐っこくて可愛い性格を思い浮かべるかもしれません。しかし、筆者が数年前に出会った野生のイルカたちは、そういったイメージとはかけ離れており、人に全く興味を示しませんでした。
【画像】人には興味がない野生のミナミハンドウイルカ? 運が良ければこんなに近くまで!
そんな無関心なイルカたちの様子と、観察を通して感じたことを綴っていきます。
観察するのはミナミハンドウイルカ
筆者が観察したイルカは、水族館などでよく見られるハンドウイルカではなく、ミナミハンドウイルカという別の種でした。
ミナミハンドウイルカは大人になるとお腹に黒い斑点が現れるため、その有無でハンドウイルカと見分けることができます。
魚介類の宝庫 ミナミハンドウイルカが定住
具体的な場所を明かすのは控えますが、イルカを観察した海域は潮流が早く、海底も起伏に富むため、魚介類の宝庫と呼ばれる場所です。
餌が多いことからミナミハンドウイルカが定住しており、ほぼ通年で彼らを観察することができるといいます。
なお、ミナミハンドウイルカを通年で観察できる海域は世界的にも珍しいそうです。
有数の大型コロニー 約50頭のミナミハンドウイルカ
筆者が観察した海域のミナミハンドウイルカのコロニー(群れ)は、非常に大きいことが特徴。通常のコロニーでは個体数が数頭~約30頭程度ですが、観察当時は約50頭ほどいました。
この海域ではミナミハンドウイルカが頂点捕食者で、一大一家を築きあげていたのです。
ミナミハンドウイルカたちは、呼吸をするタイミングで海面に上がってきます。
海面をよく観察すると、時々気泡がプクプクとあがってくるのが見えるのですが、これは気泡の真下にミナミハンドウイルカたちがいる証拠なのです。
この気泡を目印にして、次はどこに彼らがあがってくるのかを推測して観察を行います。
ヒトにまるで興味が無いミナミハンドウイルカたち
観察していていると、あることに気付きました。この海域のミナミハンドウイルカは、まるで人に興味を示さないのです。
自らボートに近づいてくることはあるため、ヒトを恐れているわけではありません。
しかし、よくテレビなどで見る「ボートと並走して楽しそうに泳ぐイルカ」とは異なり、全く見向きもしてくれないのです。
水族館やテレビのイメージとは違ったミナミハンドウイルカたちでしたが、何故こんなにもヒトに興味を示さないのかが気になります。
そこで、様々な文献を漁ったりガイドさんに話を聞いてみると、面白いことがわかってきました(この海域でも、ミナミハンドウイルカたちがボートと並走したり漁師に近づいてきたりすることはあるそうです)。
古くから共生していたヒトとイルカ
この海域では古くから漁業が盛んで、行われていたのは主に網を使わない素潜り漁でした。
すなわち、網にイルカがかかって死んでしまうという事故が起こらなかったのです。
また素潜りで採る海産物も、多くはイルカが狙う獲物と被らなかったため、イルカたちが害獣扱いされることもありませんでした。
ヒトもイルカも、両者が共に暮らすのが当たり前の地域だったために、イルカたちはヒトにあまり興味を示さなかったと考えられるかもしれません。
「イルカたちがいなくなると漁ができなくなる」
また、この海域のミナミハンドウイルカは頂点捕食者、つまり生態系における重要な役割を担っています。
「イルカたちがいなくなると漁ができなくなる」
そのように述べる漁師さんもいるそうです。
この海域はヒトとイルカが共生する、まさに“イルカの楽園”だったのです。
海域ごとの違いを感じよう
今回筆者が観察したイルカたちは、ヒトとの共生が非常に上手くいっているコロニーでした。
そして、おそらく他の海域ではまた違った背景や生態をもつイルカたちがいるはずです。
イルカの観察ツアーは日本だけでなく、世界各地で多数開催されています。海域ごとのイルカの違いを見比べてみるのも面白いのかもしれません。
水族館とはまた違った光景が見られる野生のイルカ観察。機会があればぜひチャレンジしてみてください。
(サカナトライター:みのり)
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