「スナメリ」という生きものを知っていますか?
海の近くに行った際、「このあたりの海にはスナメリがいる」と聞いたことがある人もいるのではないでしょうか。
スナメリは日本近海を含む東アジアの海域に生息するクジラの仲間です。
日本近海にすむ小さなクジラの仲間<スナメリ>
スナメリは、ハクジラ亜目ネズミイルカ科スナメリ属に属する小型のクジラです。
ちなみに、「イルカ」とはクジラのグループの一つである「ハクジラ類」の中でも、小型の種類の一部を指す言葉です。
なので、スナメリは「イルカなのか?クジラなのか?」と疑問に思うかもしれませんが、どちらも正解なのです。
スナメリの成体は体長1.5メートルから2メートルほど、体重50キロから60キロと、現在生息しているクジラ類の中では最も小型の種とされています。
くちばしはなく、頭は非常に丸いです。また、背びれはほとんどありません。
背面を見ると、真ん中に皮膚が盛り上がった部分を確認することができます。この部分が背びれの役割を果たしているそうです。
全身が明るい灰色で、どこかぬいぐるみのような“あどけなさ”もあります。
日本近海にすむ<スナメリ>
スナメリは、インドや中国、インドネシア、韓国、日本の沿岸に生息しており、生息域は海岸に近い浅い海域です。
日本でも、海沿いの地域では目視できることがあります。そのため、海に近い水族館の案内などで「この海にはスナメリがすんでいます」との説明を聞くことも多いです。
日本では地域によって呼び名が異なる
日本で生活する人々にとって最もなじみ深いクジラ類は、今も昔もスナメリだといえるでしょう。
各海域のスナメリは、さまざまな地方名で呼ばれています。
仙台湾~東京湾では「スナメリ」、伊勢湾・三河湾では「スザメ」「スンコザメ」、瀬戸内海~響灘では「ナメクジラ」「ナミソ」「デゴンドウ」、大村湾や有明海・橘湾では「ナミノウオ」「ナミウオ」「ボウズウオ」(水産庁・国立研究開発法人 水産研究・教育機構-令和 4 年度 国際漁業資源の現況 スナメリ)などと呼ばれているそう。
その呼び名の多さから、多くの地域で親しまれてきたことがわかります。
瀬戸内海では「豊かな海の象徴」
日本におけるスナメリの最大生息地とされているのが瀬戸内海です。瀬戸内海では食物連鎖の頂点でもあります。
同種は「豊かな海の象徴」ともされ、瀬戸内海の自然環境や生態系のバランスをはかる指標となる重要な生きものともいわれます。
1970年代には約5000頭のスナメリが生息していたといいますが、現在では混獲や環境汚染、船舶事故などさまざまな原因でかなりの数が減少したと報告されています。
スナメリと似たシロイルカとの違いは分布と形態
スナメリによく似たシロイルカという生きものがいます。「ベルーガ」とも呼ばれることがある、白いクジラの仲間です。
シロイルカが属するのは、クジラ目イッカク科シロイルカ属。大きな角を持つイッカククジラの仲間です。
イッカク科はスナメリが属するネズミイルカ科から約1300万年前に分岐したとされており、両者はクジラ目の中でも近い分類です。
姿かたちがそっくりなので混同されがちな2種ですが、分布と形態に違いがあります。
シロイルカは氷に覆われた海にすむ
日本近海をはじめとした温帯に生息するスナメリに対し、シロイルカは氷に覆われた北極圏の海域に生息しています。
シロイルカは主に北極海やベーリング海北部、オホーツク海などでみることができます。冷たい海にすむことから、全身が厚い脂肪に覆われています。
シロイルカの特徴<まるいおでこ>
スナメリとシロイルカの大きな違いとして、形態の違いが挙げられます。
前述の通り、スナメリは1.5メートルから2メートルと小さいですが、シロイルカは4メートルから5メートルになります。真っ白な体が特徴で、灰色がかったスナメリと並べばすぐに見分けられるでしょう。
またシロイルカには、おでこに丸く柔らかい“メロン”と呼ばれる脂肪組織があります。スナメリにもメロンはありますが、シロイルカのメロンよりは目立ちません。
シロイルカのメロンの発達は、北極圏の氷の海に適応するためだと考えられています。
まだまだわからないこともたくさんある
日本近海にすむスナメリは、瀬戸内海をはじめさまざまな地域で大切にされてきました。
しかし、イルカの個体識別としてよく使われる背びれや色彩パターンのないスナメリは、個体識別が難しいこと、また背びれがなく目視での発見が難しいことから調査の難易度が高いといいます。
そんなスナメリは未だ多くの謎に包まれているのです。
大阪府大阪市にある水族館「海遊館」では大阪湾のスナメリの調査を行っており、「もしスナメリを見かけたら、それが生きていても、死んでいても、ぜひ海遊館にご一報をお願いいたします」と情報提供を呼びかけています。
海辺に出たら、スナメリがいないか探してみてください。新しい発見に繋がるかもしれませんよ。
(サカナト編集部)