沖縄県宮古諸島の固有亜種であるミヤコヒキガエル。
本亜種は現在沖縄島に定着していないカエルですが、大阪市立自然史博物館の石田惣学芸員らの研究グループは、ハーバード大学比較動物学博物館に保管されている標本の中から、1945年12月に那覇北部で採集されたミヤコヒキガエルの標本を発見しました。
米国で発見されたミヤコヒキガエルの標本は、一体どのような意味をもつのでしょうか?
この研究結果は『沖縄生物学会誌』に掲載されています(論文タイトル:1945年に那覇北部で採集されたミヤコヒキガエルの標本記録)。
ミヤコヒキガエルは宮古島の条例で保護
ミヤコヒキガエル Bufo gargarizans miyakonisは沖縄県宮古諸島(宮古島など8つの有人島からなる)に固有のアジアヒキガエルの亜種です。

本亜種は宮古島以外に南大東島及び北大東島でも見られるものの、これらは人為的に移入されたものだとか。また、宮古島ではミヤコヒキガエルが宮古島市自然環境保全条例により保護されており、原則、採取・殺傷等が禁じられてます。
かつては大陸から人為的に移入されたとも
ミヤコヒキガエルは特異的な分布に加え、大陸産の種と形態的によく似ることから、かつては大陸から人為的に移入された個体に由来するという考えもありました。
しかし、宮古島のピンザアブ洞窟から発掘された化石と現生するヒキガエル類との形態比較により、化石のうち特に前頭頭頂骨等の部位がミヤコヒキガエルのみに特徴的な形質状態を示すことが判明。
これはミヤコヒキガエルが少なくとも宮古島に更新世末期から生息していたことを示しており、本亜種が宮古島在来の種であることを支持するものでした。
米国でミヤコヒキガエル標本が見つかる
ミヤコヒキガエルは沖縄県のうち宮古諸島に固有の亜種であり、現在沖縄島には定着していません。
では、過去の沖縄ではどうだったのでしょうか?
大阪市立自然史博物館の石田惣学芸員は米国ハーバード大学比較動物学博物館に保管されている沖縄産の両生爬虫類の標本調査を実施。松井正文・京都大学名誉教授、当山昌直・沖縄大学地域研究所特別研究員と共同でそれらの標本の同定作業を進めていました。
その結果、1945年12月5日に沖縄県那覇北部で採集されたミヤコヒキガエルのオスの標本を1個体発見します。この標本の発見と文献記録により、ミヤコヒキガエルが那覇北部に生息していたことが明らかになったのです。
沖縄島におけるミヤコヒキガエルの導入
この研究で文献記録を辿った結果、1934~37年にかけて沖縄県農事試験場がサトウキビ畑の害虫駆除試験を目的として、旧眞和志村の場内ほ場に約100匹のミヤコヒキガエルを導入していたことがわかりました。

加えて、試験場職員による文献の記述から那覇市内のサトウキビ畑にまでミヤコヒキガエルが分散していたとみられ、本標本はそれに由来するものと推定。この推定は沖縄島に導入されたミヤコヒキガエルは少なくとも8年間は自立的に存続したこを示したのです。
その後、この個体群のミヤコヒキガエルは途絶えたと思われますが、今回の標本は沖縄島でも長期間生息、世代更新する可能性を示唆するものとなりました。
ミヤコヒキガエルはペットとしても流通
沖縄島での長期生息が推定されたミヤコヒキガエルですが、ペットとしても流通していることから容易に入手できるカエルです。
自然分布しない地域への移入は在来の生態系に大きな影響を及ぼすリスクがあるため、原産地以外の地域では放逐しないことを改めて周知する必要があるとしています。
また、発見された標本は占領後の沖縄ではマラリア調査部隊の衛生将校であったフランク・N・ヤングJr.により採集されたものとみられ、この部隊と本標本との関連性も今後調査を進めるとのことです。
(サカナト編集部)