近年、魚にも感情があることが研究で明らかにされつつあり、その話題を耳にすることが増えました。
筆者はそういった研究結果に、深く頷きたい気持ちでいっぱいです。といっても、私は研究者でも海洋学の専門家でもない、ただのサカナ好き。ですが、海へと潜る度に「魚にも感情はあるのでは」と根拠のない思いを抱く出会いが幾度とありました。
初めてダイビングをした日、私と友人の間をずっとついて泳ぐ魚がいました。
それは、人懐っこい猛毒の魚・キタマクラでした。
<キタマクラ>の生態や名前の由来
キタマクラはフグ目フグ科キタマクラ属に属する魚で、日本では福島以南の太平洋沿岸や小笠原諸島、琉球列島など幅広くみられます。
名前にフグとつかないものの、れっきとしたフグの仲間で猛毒の持ち主です。

フグは種類にもよりますが、主に肝臓をはじめとした臓器に毒を持っています。しかし、キタマクラはさらに皮膚を覆う粘膜にも毒を持っているため、触ることすら危険という厄介な存在です。
釣り人からは「外道」として扱われ、粘膜の毒だけでなく器用にエサを盗むことでも知られています。
キタマクラの名前の由来は、そのまま「北枕」。つまり、「死」を意味するということです。名前からして、猛毒を連想させます。
「北枕」というかなり不吉な名前を持つ彼らですが、実はとても人懐っこい可愛い魚なのです。
まるで犬のようについてくるキタマクラたち
キタマクラは太平洋沿岸でダイビングや釣りをしていると、かなりの高確率で出会う魚。そして、ダイビングしていると、まるで犬のように少し後ろをついてくるのです。
最初は、餌付けされてるのではないかと思ったくらいでしたが、そんなこともなく、ただついてきてるだけだとダイバーさんから教えてもらった時は、可愛くて少し笑ってしまいました。

ダイバーさん曰く、バブルリングを目の前で作ってあげると、追いかけてバブルリングに巻き込まれて、くるくると回るキタマクラが見られるそうです。
毒を持ってるとは思えない、お茶目で可愛らしい一面ですよね。
なぜそんなにも人懐っこいのかを考えてみた
キタマクラは、とびきり人懐っこい魚ですが、フグの仲間は全体的に物怖じしない個体が多いように思います。例えば、サザナミフグについても、こちらが近づこうとも逃げずにじっとしていました。
その理由を私なりに考察すると、やはり毒の存在が大きな働きをしているのだろうと想像します。

毒のない魚たちも、好奇心なのか一度は近づいてきますが、一定の距離を保ち、逃げるのも早い。自然界で「逃げる」ということは、身を守るための最も重要な手段とも言えます。
キタマクラをはじめとする、フグの仲間たちは毒を持っているために捕食されるリスクが低く、だからこそ余裕があるのではないでしょうか。
その余裕からくる人懐っこさにすっかり引き込まれてしまいそうですが、毒の存在を忘れて触れてしまわぬよう、十分に注意が必要です。
(サカナトライター:shell)