2025年5月、フサカサゴ科・オニカサゴ属に新しい種が加わりました。ダイオウカサゴという種です。
この新しく記載された種は学名に「gigas」、種の標準和名に「ダイオウ(大王)」とつくことからもわかるように巨大な種で、その大きさは標準体長で30センチを超えます。
そんな新種を筆者は知らぬうちに美味しく食べていたのでした。
我が家にやって来た巨大なカサゴ
2023年6月末の蒸し暑い日のこと。鹿児島県口永良部島の珍しい魚を購入しました。
頭部の突起が非常に長く伸びたヒメテングハギ、小ぶりだがオレンジ色の美しいスミツキカノコ、ハマダイによく似た高級魚「まち」の一種であるハチジョウアカムツ──。
そんな魚たちと一緒に、非常に大きなオニカサゴ属の魚が我が家にやって来ました。

このときの個体はオニカサゴのようにも見えましたが、オニカサゴとは明らかに違う異質な見た目。筆者は「見た目同定」によって、よく似た特徴を有するウルマカサゴではないかという推測をたてたのでした。
<ダイオウカサゴ>として新種記載される
しかし、筆者には迷いがありました。例えば『奄美群島最南端の島 与論島の魚類』などの書籍に掲載されているウルマカサゴとはやや異なった色彩をしていたからです。

そのため、2024年に福岡市内で行われた日本魚類学会年会の懇親会会場において、フサカサゴの仲間に詳しい鹿児島大学博物館の本村浩之氏にデジタルカメラの写真をもとにお伺いしてみたところ、「ウルマカサゴでなく、オニカサゴ属の未記載種」とのこと。
この魚を研究している、松本達也氏を紹介され見ていただいたところ、同じ意見のようでした。

そして今年5月5日、この2名によって、ついにダイオウカサゴScorpaenopsis gigas Matsumoto and Motomura, 2025の新種記載論文が出版されたのでした。
分布域は静岡県、長崎県、鹿児島県。海外では台湾とインド洋のアンダマン海で採集されており、完模式標本(ホロタイプ)は鹿児島県大隅半島の内之浦湾で採集されています。
標準和名の「ダイオウ」というのは「大王」の意味で、ダイオウイカなど巨大な生物に使われることがあります。学名種小名の「gigas」も同様で、淡水魚最大級の魚のひとつであるピラルクArapaima gigas (Schinz, 1822)や、アジア最大のナマズ目魚類であるPangasianodon gigas Chevey, 1931などと同様の種小名です。
その記載論文によれば、ダイオウカサゴはトウヨウウルマカサゴやオオウルマカサゴ、ウルマカサゴ、オニカサゴなどと近い関係にあるようで、実際に文献資料などをみても非常によく似ています。そのなかでも、とくにトウヨウウルマカサゴおよびオオウルマカサゴに近いとされるようです。

トウヨウウルマカサゴScorpaenopsis orientalis Randall and Eschmeyer, 2001とは胸鰭の軟条数がダイオウカサゴでは通常19、トウヨウウルマカサゴでは通常18であること、後頭部の様子がダイオウカサゴでは平坦だが、トウヨウウルマカサゴの成魚では後頭窩:後頭部にあるくぼみが発達することなどで見分けることができます。

一方で、オオウルマカサゴScorpaenopsis oxycephala (Bleeker, 1849)とは後頭部の様子がダイオウカサゴでは平坦だが、オオウルマカサゴではV字様の浅いくぼみがあることや、ダイオウカサゴには頭部や体側に小さな黒点があるのに対し、オオウルマカサゴではそれがないことなどによって見分けられるとのことです。

同じように鹿児島県で漁獲されるオニカサゴScorpaenopsis cirrosa (Thunberg, 1793)とは、胸鰭の軟条数がダイオウカサゴでは通常19、オニカサゴでは通常18(17~19でダイオウカサゴと重複する可能性がある)こと、背鰭の第3または4棘が最長であることで、背鰭第4または5棘が最長であるオニカサゴと見分けられます。
ウルマカサゴScorpaenopsis papuensis (Cuvier,1829)とは頭部や体側の斑紋がダイオウカサゴでは頭部や体側に黒点があるが、ウルマカサゴにはないこと、上・下鰓蓋骨棘の間の鱗がダイオウカサゴではみられないが、ウルマカサゴにはあることといった点で識別されます。
オニカサゴ属の同定は難しい
日本産オニカサゴ属魚類はダイオウカサゴを含めて14種ほどが知られています。
ダイオウカサゴは写真のオニカサゴに近いグループとされており、ながらくこの種と混同されていました。

その理由の一つとしてはオニカサゴ属魚類の同定は難しいということがあげられます。
オニカサゴ属魚類の同定方法としては、胸鰭軟条数や背鰭棘条の長さ、体側や頭部に見られる黒い斑点の有無、後頭窩の深さや形状、頭部の棘の発達具合、LSS(側線上方鱗の横列数)などが重要な同定形質となっています。
しかし、胸鰭軟条数や後頭窩の深さなどは写真からだけでは判別しにくいことも多くあるため、できるだけその個体を残しておいて同定するのが一番でしょう。
またはしかるべきところに標本を登録しておくべきかもしれません。
ダイオウカサゴを美味しくいただく
ダイオウカサゴは市場ではオニカサゴなどと混同されており、オニカサゴなど他種との見分けはきわめて難しいところがあります。実際にこの種はオニカサゴ属のほかの魚と似ており、新種とは思われていなかったようです。
そしてオニカサゴ属の大型種というものはかなり美味しい魚であり、市場でも高値で取引されるため標本を確保するが難しかったようです。
そんなダイオウカサゴ、筆者も先述の口永良部島産の個体を食べていたのでした。

オニカサゴ属の大型種は刺身にしたり唐揚げにしたり、あるいは蒸して食べたりとさまざまな方法で美味しく食べられるのですが、我が家ではカサゴ類の大型種といえば、唐揚げで美味しく食べるというのが常なのです。
オニカサゴ属の魚は身にうまみがあり、しかも大きい魚体で食べ応えありということで大満足の魚でした。ただ、次回はお刺身でも食べてみたいと思います。
(サカナトライター:椎名まさと)
謝辞と参考文献
今回の記事の作成については、魚の入手にあたり石田拓治さん(長崎 マルホウ水産) 、ハンドルネーム「動脈」さん、魚を見て頂いた本村浩之さん、松本達也さんにお世話になりました。ありがとうございました。
Matsumoto, T., Motomura, H. 2025. Scorpaenopsis gigas, a new Indo-West Pacific species of scorpionfish (Scorpaenidae). Ichthyol Res (2025). https://doi.org/10.1007/s10228-025-01027-w ※早期公開版
本村浩之・出羽慎一・古田和彦・松浦啓一(編).2013.鹿児島県三島村 ― 硫黄島と竹島の魚類.鹿児島大学総合研究博物館,鹿児島市・国立科学博物館,つくば市.390 pp., 883 figs.
本村浩之・松浦啓一(編).2014.奄美群島最南端の島 ― 与論島の魚類.鹿児島大学総合研究博物館,鹿児島市・国立科学博物館,つくば市.648 pp., 1808 figs.
本村浩之・吉野哲夫・高村直人. 2004. 日本産フサカサゴ科オニカサゴ属魚類(Scorpaenidae: Scorpaenopsis)の分類学的検討. 魚類学雑誌.51(2):89-115.
中坊徹次編. 2013.日本産魚類検索 全種の同定 第三版.東海大学出版会.秦野.