海の“かいそう”と聞くと「海藻」を思い浮かべますが、「海草(かいそう)」と呼ばれる植物がいることを知っていますか?
海草は浅海に生育する被子植物の総称で、根、茎、葉の区別がある点で海藻と異なります。この植物は動物の餌や棲家としてだけではなく、二酸化炭素を吸収・固定するブルーカーボン生態系の基礎を支える重要な存在です。
先行研究で海草が約8100万年前に出現にしたことが明らかになっているものの、海草を中心としたブルーカーボン生態系の成立は謎に包まれていました。
そのような中、北海道大学大学院理学研究院の山田敏弘教授は、愛知県南知多町に分布する1800万年前の地層から中新世の化石としては世界初の海草の新種を発見。現在のブルーカーボン生態系の原型が1800万年前にできていたことが示されました。
この研究成果は『Aquatic Botany』に掲載されています(論文タイトル:Seagrass fossils from the lower Miocene Morozaki Group in Aichi Prefecture, central Japan)。
重要な生態系を作る<海草>
海草(かいそう)は浅海に生育する被子植物の総称で世界の熱帯~亜熱帯を中心に広く分布。同音異義語の海藻と区別するため“うみくさ”とも呼ばれています。
一度陸上で進化して再び海へ戻った海草は海藻と異なり、根、茎、葉の区別があるほか、海藻が体全体から栄養を吸収するのに対し、海草は地下から栄養を吸収することが特徴です。

代表的な海草としてアマモやウミヒルモが知らており、様々な生物の餌や棲家となるほか、海における二酸化炭素の吸収・固定(ブルーカーボン生態系)を担う重要な存在として知られています。
海草は化石として残りにくい
では、現在のブルーカーボン生態系はどのように成立したのでしょうか。
これまでの研究により海草が約8100万年前に出現したことが明らかになっているものの、柔らかい海草は化石として残ることは稀であり、海草化石の報告は数例しかないといいます。
分子系統解析に基づく推定によると、現生種の祖先が約3000~1000万年前に出現したと考えられていますが、この年代の海草化石は報告されていませんでした。
ブルーカーボン生態系の成立史を解き明かすには、この重大なミッシングリンクを埋める必要があります。
多数の化石が発見された地層
愛知県知多郡南知多町師崎周辺は中新世(約1800万年前)の深海ないし深海よりやや浅い海で堆積した地層が分布しています。
この師崎周辺では1980年代に大規模な農地造成が実施され、その際に深海魚やウニ、ウミユリなど通常は化石になる前に分解される生物の化石が多数発見されました。

1993年にはその化石をまとめた図録『師崎層群の化石』が刊行。その中には「分類できない化石」という項目があり、「ユムシ?」や「ウミエラ?」として多数の海草化石が掲載されています。
北海道大学大学院理学研究院の山田敏弘教授は幼少期から化石マニアで、高校生の頃に『師崎層群の化石』に掲載された海草化石に接する機会があったといいます。
山田教授は長らくユムシであろうと信じて疑わなかったものの、最近になって図録を見返し、その化石が海草化石であることに気づきます。
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