ケブカガニは絶対に食べてはいけない!
「鉗脚や体に毛が生えているカニ」として私たちがすぐに思いつく生物としては、クリガニ科のケガニが有名です。
ケガニはケブカガニよりも大型で甲長8.5センチ、甲幅7.9センチほどになりますが、ケブカガニはそれよりも小型で、またケガニは冷たい海を好むカニであり、主に鳥取県および茨城県以北の海にすむのに対し、ケブカガニは暖かい海を好むカニで、関東地方および九州北岸が北限とされます。

私たちが利用する上で、ケガニとケブカガニのきわめて大きな違いとしては、ケガニは重要な食用種であるのに対し、ケブカガニは有毒とされ、食べることができないという違いがあります。

よく有毒のカニと無毒のカニを見分けるための方法として、「毒があるカニはハサミの先端が黒い」とされています。
しかし実際には、有毒のカニについては鉗脚の先端が黒いものが多いものの、すべての有毒のカニで鉗脚の先端が黒いわけではありません。
逆に、食用になるマツバガニ(山陰地方でいう「まつばがに」はズワイガニのことであり別種)では鉗脚の先端が黒くなるため、この特徴にはあてはまりません。

ケブカガニと対照的な和名と見た目をもつスベスベマンジュウガニを含め、一般的にはオウギガニ科やそれに近縁の分類群のカニのうち、いくつかの種では毒を持つことが周知されています。
沖縄県内においては有毒のカニ類による中毒例が(公式には)長らくなかったのですが、2024年に同県・八重山諸島において県外からの観光客がウモレオウギガニを食べて中毒を起こした事例もあり、注意しなければなりません。
原則として、琉球列島などでカニの仲間を食べるときは、ワタリガニの仲間やノコギリガザミ、あるいはアサヒガニなど、一般的にお店で販売されたものだけを食するようにし、自分で採集したカニの仲間は絶対に食べないようにしましょう。
(サカナトライター:椎名まさと)
参考文献
橋本芳郎(1977)、魚介類の毒、学会出版センター
三宅貞祥(1983)、原色大型甲殻類図鑑(II)、保育社
野口玉雄(1996)、フグはなぜ毒をもつのか 海洋生物の不思議、日本放送出版協会
下瀬 環(2021)、沖縄さかな図鑑、沖縄タイムス社
琉球新報-海で捕まえたカニ、ゆでて食べ食中毒 八重山で観光客の男性 有毒「ウモレオウギガニ」事例は87年以来 沖縄
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