生物の多くは性を持っていますが、性を決める仕組みは同じではありません。
脊椎動物においては遺伝的な要因、胚発生時の温度など環境要因に基づいた多様な性決定を持っており、その一つが性染色体です。哺乳類などの性染色体は1億年以上の古い起源を持つ一方、条鰭類では比較的新しい起源を持ちます。
一方、脊椎動物の他の系統と隔たれた独自の進化を遂げたグループである軟骨魚類(サメやエイ)は他の系統と対照的に性決定の仕組みはほとんど調査されていませんでした。
そうした中、総合研究大学院大学の丹羽大樹らから成る研究グループは、軟骨魚類のゲノム配列を比較。軟骨魚類のX染色体が共通の遺伝子セットを保持していることを発見しました。
この研究成果は「Proceedings of the National Academy of Sciences USA (PNAS)」に掲載されています(論文タイトル:Sharks and rays have the oldest vertebrate sex chromosome with unique sex determination mechanisms)。
謎の多い性決定の仕組み
地球上に生息する多くの生物では性を持っており、性決定の仕組みは生物によって様々です。ヒトを含む脊椎動物においては遺伝的な要因に加え、胚発生時の温度など環境要因による性決定の仕組みを持っています。
その1つが性染色体。一般的にヒトでは父と母から引き継いだ23対の染色体のうち1対(X染色体とY染色体)が性染色体であり、Y染色体を父から引き継いだ場合に男性の身体が作られます。
では、他の染色体が1対間で同じ形をしている中で、どのようにして性染色体が進化してきたのでしょうか。
魚類の性染色体
哺乳類や鳥類においては性染色体が1億年前と古い起源を持ち、1対の間で大きさが著しく差があります。一方、多くの魚類(条鰭類)では比較的新しい起源の性染色体を持ち、1対の間で大きさの差があまりありません。
これらのことから、性染色体は世代を経るにつれて一方が短くなり、やがて新しいものに取って代われるといった説が提唱されてきました。しかし、その全体像は把握できていないといいます。
軟骨魚類における性決定
軟骨魚類(サメやエイ)は脊椎動物の他の系統と深く隔たれた独自の進化をしてきたグループで、他の系統と対照的に性を決める仕組みがほとんど調べられていません。

顕微鏡観察による分析の結果では、軟骨魚類の一部の種がXX/YY型の性染色体によって性決定が行われていることが推察されたものの、それらの性染色体がどのように進化してきたのかは謎とされてきました。
そのような中、総合研究大学院大学の丹羽大樹、国立遺伝学研究所の工樂樹洋教授らから成る研究グループは、軟骨魚類のゲノム配列を比較。軟骨魚類の性決定の謎に迫りました。
脊椎動物で最古の性染色体
今回の研究ではイヌザメとトラザメの2種の軟骨魚類について、最新のゲノム配列情報取得技術を取り入れることにより、染色体が認識できる全ゲノム配列を作成。さらに、近年公開された別種の全ゲノム配列を活用し、複数種の性染色体のゲノム配列の特定と比較が行われました。

その結果、軟骨魚類の大半(サメ・エイ類)はX染色体が共通の遺伝子セットを保持していることが判明。約3億年前に存在したそれらの共通祖先から現代まで、同じ性染色体を保持してきた可能性が示されたのです。
また、哺乳類や鳥類の性染色体は1~2億年前に誕生したとされ、軟骨魚類の性染色体はそれらよりも古く、脊椎動物で最も古い起源を持つことが明らかになりました。なお、ギンザメ類はサメ・エイ類と系統的に離れており、これらと共通と思われるX染色体は見出されなかったようです。
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