海鳥の糞は多くの栄養が含まれていることが知られており、肥料として使われることもあるくらいです。
そのため、繁殖のため海鳥がたくさん集まる島では、海鳥の糞によって土壌に多くの栄養が畜産されることがわかっています。一方、海にいる間の海鳥がどのような排泄パターンをしているのかは、飛行し続ける海鳥の観察が困難なこともあり謎に包まれていました。
そのような中、東京大学大気海洋研究所の上坂怜生特任研究員と佐藤克文教授は、動物に装着できるビデオカメラを駆使し、オオミズナギドリの排泄行動を観察。本種における排泄パターンを明らかにしました。
この研究成果は『Current Biology』に掲載されています(論文タイトル:Periodic excretion patterns of seabirds in flight)。
二つの面を持った<海鳥の糞>
海鳥の糞は肥料として使われるほど栄養があり、窒素やリンなどの栄養塩が多く含まれています。
そのため、海鳥が繁殖のために集まる島では海鳥の糞により土壌のたくさんの栄養が蓄積されるのです。また、海鳥の糞は栄養が多く含まれているだけではなく、鳥インフルエンザなどの病原体を媒介することも知られています。

このことから、海鳥の排泄パターンを理解することは、海洋における栄養塩の循環および鳥インフルエンザの感染経路を理解する上で非常に重要なことです。
しかし、海にいる間の海鳥の排泄パターンを理解するにも、空を飛び移動する海鳥を観察することが困難であり、そのほとんどが不明とされてきました。
オオミズナギドリにビデオカメラを装着
海鳥の排泄パターンが謎とされる中、東京大学大気海洋研究所の上坂怜生特任研究員と佐藤克文教授は、オオミズナギドリ Calonectris leucomelas の腹部に後ろに向けた小型のビデオカメラを装着。ほとんどわかっていない海鳥の排泄パターンの記録と解析を行いました。
これにより、飛行するオオミズナギドリの排泄腔付近を長時間撮影することが可能となり、海上におけるオオミズナギドリの排泄行動の観察・記録が可能となったのです。
着水中は排泄をしない?
ビデオカメラを装着したオオミズナギドリ15羽からは合計約36時間もの映像が得られ、映像の中でオオミズナギドリが195回の排泄を行っていることが明らかになりました。
さらに、ほとんどの個体で4~10分程度の一定の間隔を保ちながら糞をするという、正確な周期性も見られたようです。ただし、1個体あたりの映像は3時間程であることからこの周期がどのくらい持続するのか、さらなる調査が必要とされています。

また、映像からはこの他の特徴として、195回の排泄のうちほぼすべての排泄が飛行中で行われていることも判明。着水中でもわざわざ一度飛び立ってから排泄していたようです。
このことは糞が体に付くのを防ぐほか、天敵をおびき寄せることを防止する目的があるのではないかと考察されています。
平均すると1時間に5.2回の排泄
研究で得られたデータの分析した結果では、平均するとオオミズナギドリが1時間あたりに5.2回程の頻度で排泄していることも判明しました。
これを陸上で計測された糞の重量から計算すると1時間あたり約30グラムの糞を海に落としていることになるようです。また、オオミズナギドリの体重が500グラム程なので、この糞が体重の約5パーセントに当たるとされ、飛行に必要とするエネルギーにも排泄が関係しているとされています。
しかし、1度に排泄される糞の重量にばらつきがあるほか、陸上と海上では糞の重さが異なるとされ、正確な数値を算出するためにさらなる調査が必要だといいます。
さらに、オオミズナギドリの排泄は摂餌のために他の個体と集団を作っている際にも頻繁に見られました。このことから、糞による局所的な栄養塩濃度の増加が発生してる可能性が考えられています。
また、海鳥は異なる繁殖地から来た個体が同じ餌場を利用することがあるため、集団を作っている際に排泄がみられたことは、繁殖地間の感染拡大が海上で糞を介して起こっているという考えを支持するものとなったのです。
海洋における栄養塩の循環と鳥インフルエンザ感染経路
今回の研究によりオオミズナギドリの排泄パターンの一部が明らかになりました。この成果は海洋生態系における海鳥の糞の役割を解明する上で、重要な知見にとなると考えられています。
さらに、今後の研究により海洋生態系の仕組みと鳥インフルエンザの感染経路をより深く解明することが期待されています。
(サカナト編集部)