美しい自然が広がる北海道には古代の地層が分布し、これまで多数の化石が発見されてきました。発見される化石たちは学術的に貴重なものも多く、中には新種と判明する化石も少なくありません。
この度、北海道北西部小平町、苫前町、羽幌町の中生代白亜紀サントニアン期の地層から採集されたアンモナイトの化石13点が新種であることが判明し、Eubostrychoceras perplexumと命名されました。
この研究成果は『Paleontological Research』に掲載されています(論文タイトル:A new species of Eubostrychoceras (Ammonoidea, Nostoceratidae) from the Santonian (Upper Cretaceous) of Hokkaido, Japan)。
北海道の化石
豊かな自然を保有する北海道には古代の地層が分布しており、数多くの化石が発見されてきました。これらの化石は学術的に貴重なものも多く、研究により新種と判明する化石も少なくありません。
実際、最近もいくつかの化石が新種記載されており、例としてむかわ町の新種のゾウギンザメ属、北海道中川町の新属新種のアンモナイト、北海道枝幸郡中頓別町のスギ科植物(ナカトンベツコウヨウザン)などが挙げられます。
北海道留萌郡は化石の宝庫
北海道留萌郡の小平町などには白亜紀の地層が分布しており、アンモナイトを含む多数の化石が発見される化石の宝庫として知られてきました。

今回の研究では北海道北西部小平町、苫前町、羽幌町に分布する約8630万~8360万年前の中生代白亜紀サントニアン期の地層から採集されたアンモナイト化石13点を調査。化石標本が新種であることが判明しています。
新種の特徴
今回、新種記載されたアンモナイト化石はユーボストリコセラス属であり Eubostrychoceras perplexum と命名されました。属名の“Eubostrychoceras”はラテン語でおよそ「巻き髪の角」の意味を持ちます。

ユーボストリコセラス属のアンモナイトは突起のない螺旋塔状の殻を持った異常巻アンモナイトで、約9390万~7210万年前の白亜紀チューロニアン期からカンパニアン期にかけて世界各地に生息していました。
新種記載された E. perplexum は棒状の幼殻を持つこと、その後の成長過程で非常にきつく巻いた殻をもつことが特徴。これらの特徴が既知種と異なることから未記載種と判断され、本研究で新種記載されたのです。
混乱する分類
Eubostrychoceras perplexum は殻の表面に突起がないことから分類上、ユーボストリコセラス属とされたものの、形態および成長パターンは他の異常巻アンモナイトであるハイファントセラス属の Hyphantoceras orientale や Hyphantoceras transitorium に酷似しているといいます。
特に、棒状の幼殻や成長中期以降の若干角ばった殻断面が共通しているようです。
加えて、同じ地域において H. orientale が先に出現し、少し遅れて E.perplexum が現れることがわかっています。
新種は突起を失って進化した姿?
H. orientale と E.perplexum の出現するタイミングはハイファントセラス属が突起を失って進化した種が E.perplexum である可能性もあると考えられています。
実際、著者はこのシナリオを支持するように突起が発達しない H. orientale の変異個体の存在を別論文で報告。突起の有無を表徴とした現在の分類体系において、今回の新種はユーボストリコセラス属に分類される一方、系統的にはハイファントセラス属に由来する可能性が示されました。
E.perplexum により、現在の分類体系と推定される系統が一致しないという矛盾が生じており、本種が分類体系の例外的存在である可能性が指摘されています。
なお、E.perplexum の種小名“perplexus”はラテン語で「混乱した」という意味を持ち、本種の分類学的な位置づけと系統関係の矛盾が長年、本論文の著者を悩ませてきたこと因んでいるようです。
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