テッポウエビ科のテッポウエビモドキ属は温帯域から多くの種が記録されているグループで、世界で16種が知られています。
このうち北西太平洋地域では3種が分布、中でも Betaeus levifrons はロシアウラジオストク付近の日本海から数個体が知られる稀種でした。
今回、京都大学の邉見由美氏と高知大学の伊谷行氏による研究グループは、日本初記録となる Betaeus levifrons を5個体を採集。新たな和名が提唱されました。
この研究成果は『Journal of the Marine Biological Association of the United Kingdom』に掲載されています(論文タイトル:The first record of Betaeus levifrons (Decapoda: Caridea: Alpheidae) from the Pacific Coast of Japan, with remarks on symbiosis with Upogebia major)。
テッポウエビモドキ属の稀種
テッポウエビ科テッポウエビモドキ属(Betaeus)は温帯域で多くの種が記録されているグループで、世界では16種知られています。
北西太平洋地域においては、エクボテッポウエビモドキ Betaeus gelasinifer、テッポウエビモドキ B.granulimanus、B.levifrons の3種が分布。とくに B.levifrons はロシアのウラジオストク付近の日本海から8個体のみの標本が得られている稀種だったといいます。

そうした中、研究グループは2017年と2018年に北海道の厚岸湾と有珠湾で、アナジャコの巣穴共生者相を調査中に見慣れないテッポウエビ類を採集。得られた標本の同定を行いました。
北海道から複数の標本得られる
今回、得られた標本は厚岸湾と有珠湾で5個体。アナジャコ Upogebia major の巣穴から発見されました。

この標本は調査に頭胸甲額縁が眼を覆うこと、第1胸脚は左右でほぼ同じ形状かつ長いこと、その指節が下方に位置すること、頭胸甲額縁が眼の間でU字に凹まないこと、尾肢が尾節よりも長いことなどから Betaeus levifrons と同定。
この形態的特徴と併せてミトコンドリアDNAの16S rRNAとCOI 遺伝子の部分配列も決定した結果では、16S rRNAは日本産の個体とロシア産の個体との間でほとんど遺伝的差異がないことがわかっています。
カクレテッポウエビモドキと命名
アナジャコの巣穴内生物の定量採集では Betaeus levifrons のほかにハゼ類やウロコムシ、二枚貝なども採集されたといいます。
比較のためにテッポウエビの巣穴からも採集が行われましたが、こちらからはスジエビのみが発見され、B. levifrons は採集されていません。一方、これまで、B. levifrons はロシアにおいてもアナジャコとバルスアナジャコの巣穴から採集されていることから、アナジャコ類の巣穴を利用する共生種であると考えられています。
日本産のテッポウエビモドキ属2種はいずれも自由生活を行うことに対し、本種は巣穴内で共生生活をしていることから B. levifrons にカクレテッポウエビモドキの和名が提唱されました。
アナジャコに共生する生物相
今回の研究ではアナジャコの巣穴に共生する生物相についても、日本とロシアの日本海側からの報告の整理が行われています。
とくに共生性のテッポウエビ類については本州、四国、九州に分布するクボミテッポウエビが北海道とロシアに分布せず、反対にカクレテッポウエビモドキは本州、四国、九州からの記録がありません。
この共生者相の地域による違いは宿主と共生者、異なる共生者間で相互作用を与えることから、今後の進化・形態研究において重要な知見になるとされています。
共生関係の進化
カクレテッポウエビモドキはこれまでロシアのピョートル大帝湾のみから知れており、日本海固有の分布である可能性が考えられていましたが、今回の研究により太平洋岸にも分布することが明らかになりました。
本種が属するテッポウエビモドキ属は自由生活以外にウニやカニダマシ、ユムシなど様々な無脊椎動物と共生することが知られているようです。今後、テッポウエビモドキ属を用いた研究により、共生関係の進化について多くの知見が得られることが期待されています。
(サカナト編集部)