手のひらどころか、指先にちょこんと乗るほどの小さな海の仲間たち。そんなキュートな“海のあかちゃん”に50種類も出会える写真集が『海のあかちゃん』(でんか(2025)、ワニブックス)です。
表紙を飾るのはマメダコのあかちゃん。成長しても最大10センチほどにしかならない小型のタコですが、幼いころは透明で、さらにちんまりとしていて、見ているだけで心がほぐれます。
著者のでんかさんは1995年生まれ、北海道出身の海洋生物愛好家。東京海洋大学で無脊椎動物を学んだ後、海産無脊椎動物の増養殖や育種の現場に携わりながら、フィールド観察や撮影、執筆活動を精力的に行っています。
これまでに『ヤドカリのグラビア』シリーズや『海洋生物観測所』シリーズを笠谷海斗名義で自主出版し、SNSとあわせて海辺の生き物の魅力を発信してきました。ヤドカリ好きとして、今年は『今すぐ見つけに行きたくなるヤドカリ探索図鑑』(緑書房)も刊行しており、こちらもおすすめの一冊です。
思い出のアルバムをめくるような、温かい気持ちに
『海のあかちゃん』には、ウニ、カニ、ヤドカリ、ヒトデ、ウミウシ、イカ、タコ、フグなど、砂浜や磯、浅瀬に暮らす多様な生きものたちが登場します。著者自身の指に乗せて撮影した写真も多く、実際の大きさが直感的に伝わるのも見どころのひとつです。
また本書では、あかちゃんからこども、そしておとなへ──成長の過程を追う構成が随所に盛り込まれています。
色や形が変わっていく様子は驚きに満ち、成体では見られない色や模様など、あかちゃんの時期ならではの姿に出会えるのも、この本ならではの醍醐味です。

体長にそぐわない殻を無理して背負うヤドカリ。真っ白な姿から色を帯びていくミナミスナガニ(成体もかわいい)。マカロンを思わせるような、小さくてカラフルなヒオウギたち……ページをめくるたび微笑ましく、まるで身近な人のアルバムをめくるような、あたたかい気持ちになります。
さらにQRコードを読み取れば、観察の様子を収めた短い動画にもアクセスできます。写真だけでは伝わらない動きや仕草に触れることで、自然と「実際に会いに行きたい」という気持ちが芽生えてくるでしょう。
気がつけば海辺に出かけたくなる本
実際に会いに行きたくなったら──そんなヒントもこの本に載っています。
各生物の紹介ページには、基本情報として生息域や著者が実際に出会った場所が掲載。そのうえで、巻末には探し方や調べ方がまとめられ、必要な道具や観察のコツ、毒を持つ生きものへの注意点などが丁寧に解説されています。

さらに、記録の付け方(自分だけの図鑑づくり)やSNS投稿で気をつけたいことまでやさしく解説。どれも長く情報を発信してきた著者だからこその説得力があります。
生きものだけでなく、収録されている磯の風景写真もまた素晴らしく……「この磯、生きものがたくさんいそう!」と思わせるもので、眺めているだけでも生きもの探しへのワクワク感が広がっていきます。
小さな命の成長が詰まった『海のあかちゃん』。ページをめくるたびに癒され、気づけば海辺へ出かけたくなる──そんな素敵な一冊です。
(サカナト編集部)
参考文献