ある大潮の日。岸壁採集に行くと、沢山のカブトクラゲと思われる生物が群れていました。
カブトクラゲは有櫛動物(クシクラゲの仲間)の一種。刺胞動物のクラゲと混合されがちですが、全く違う分類群の生き物です。刺胞を持っていないため、刺されることはありません。
夏の終わりから秋にかけて、よく沿岸部に出現する生物です。
カブトクラゲの生命力の強さに気づく
ある日、岸壁に出現したカブトクラゲ。
筆者は2匹ほど持ち帰り飼育観察を試みることにしました。
これまでツノクラゲとチョウクラゲの2種類のクシクラゲを持ち帰ったことがありますが、両者ともひと晩たつと溶けて死んでしまった経験があります。
しかし、カブトクラゲは次の日も生きており、クシクラゲのなかでも特に生命力が強いことがわかりました。
本種は水族館でもよく展示されていますし、もしかするとこういった理由があるのかもしれません。
カブトクラゲに色々な餌を与えてみた
カブトクラゲの生命力が強い一方、エサであるブラインシュリンプが孵化せず悪戦苦闘。エサの確保が厳しくなり、どうしようと思った矢先にあることを思いだしました。
それは数年前にツノクラゲを採集した時のこと。同時にユウレイイカの触手の一部を拾ったことがあります。同じバケツに入れてしばらくすると、なんとツノクラゲがユウレイイカの触手を食べていたのです。

これを見て、ツノクラゲが生きているプランクトンでなくても食べることがわかりました。
そこで、今ある物でカブトクラゲのエサにできそうなものを何種類か試すことに。
煮干しの粉と乾燥エビ

まずは家にあった煮干しを試してみました。
煮干しをミルで粉末状に加工。粉を海水で溶かし、スポイトで与えてみますが、どこか嫌がるようなそぶりを見せ食べてはくれません。

次に筆者が飼っていた魚のエサである乾燥エビを試します。エビの中身を手ですりつぶして与えてみましたが、またもや食べるそぶりは見せません。

煮干しもエビも匂いや味が好みに合わなかったのでしょうか。
無塩シーチキン
乾燥した餌がどちらともダメだったので、今度は最初からぬれている状態のシーチキンを与えてみました。

丁寧に海水とスポイトで身をほぐしていき口元で吹きかけると、大きいほうは食べずにはけてしまうばかりでしたが、小さい方は何本か筋繊維を胃の中にいれているのが見えました。
個体によって好みの差があるのかも知れませんね。
ズワイガニのほぐし身
人間にとってもお高い食材であるズワイガニも試しみました。

ズワイガニ缶詰から身を少しだけ拝借して与えてみます。
すると……なんと2匹とも頬張るごとくたべているではありませんか!
高級な味はクラゲでも分かるのでしょうか。あまりにも食いつきが良かったです。
卵の黄身
次に海産物ではありませんが、栄養価豊富で安価かつ健康に良い卵を試してみました。

黄身にはカロリーやタンパク質が多く含まれているだけでなく、カルシウムやビタミンA・D・E・Kなどの脂溶性の物が多く含まれているため期待ができます。
少しだけスポイトで吸いとり、冷凍してから与えてみることに。

すると、大きい方の個体が周りに漂う卵黄を少し胃に入れました。小さい方もよくよく見ると食べているのがわかります。陸のものは全く食べないというわけではないようです。
スルメの粉
最後にもう一度、海産物を試しました。

イカは海産物の中でもタンパク質やアミノ酸が多く含まれています。そこで粉末状のものをふやかして与えてみました。
すると、なんと大きい方の個体がひと粒食べたのです。煮干しも乾燥エビも食べなかったためイカもダメかと思いましたが、意外な結果となりました。

もしかすると、匂いが強いと食べるのかもしれません。
いちばん良かったエサは?
現時点ではこれ以上食べさせられるものが家には無かったので、これで給餌実験は終わりです。
結果、いちばん食いつきが良かったのはカニのほぐし身でした。もし、生魚やイカの塩辛などより生の海産物に近いものがあれば試したかったのですが、またの機会に持ち越しに。
もし、生き物を飼育・観察する際にエサが切れてしまったり緊急でエサが必要になった時は、諦めずにそれに近いものを探してみてください。
(サカナトライター:俊甫犬)