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日本産淡水魚とかかわるうえで大事なこと

九州北部の小河川。4種のタナゴが採集でき、二枚貝も豊富にみられた(提供:椎名まさと)

アブラボテをはじめとするタナゴの仲間は、美しい色彩をしており観賞魚として親しまれています。

しかし、それと同時にほぼすべての在来タナゴの種・または亜種は国または各地域において絶滅危惧ないし、準絶滅危惧とされている現状があります(アブラボテは準絶滅危惧)。

そのため、アクアリストはタナゴの仲間を含めた日本産淡水魚とかかわるうえで、いくつか注意すべき点があります。

(1)放流しない

まずタナゴ保全で一番重要なことは「魚や水生生物を放流しない」ことです。

アブラボテは西日本に広く生息していますが、いくつかの集団に分けられるとされており、異なる地域のものを放流すると遺伝的攪乱(かくらん)が起こるおそれがあります。

遺伝的攪乱とは、その地に生息する生きものが他の地域に生息する生きものと交配することによって、持っていた遺伝子が変化してしまうこと。同じ種でも、すむ場所によって持っている遺伝子には違いがあるのです。

そうなると、不稔(ふねん・子孫を残せなくなること)などが起こる可能性もあり、その魚種の保全に悪影響を及ぼすおそれがあります。

外来魚タイリクバラタナゴ。放流により在来タナゴに悪影響を及ぼしている(提供:椎名まさと)

さらにタナゴ類に寄生虫や病原菌などが付着している場合もあり、放流することによってそれらも拡散される危険性があります。

アブラボテがいない地域にアブラボテを放流する場合も、在来のタナゴと競合してしまうことがあり、よくありません。実際にアブラボテは福井県の嶺北地域にも見られるようになり、当地に生息しているヤリタナゴに悪影響を及ぼすことが危惧されています。

もちろん、タナゴ類を捕食する危険性がある魚、例としてオオクチバスやコクチバス、ブルーギルを含むほかの淡水魚の放流も絶対にやめましょう(一部の種は外来生物法や、都道府県条例などで淡水魚の放流を禁じていることがある)。

つまり放流というのは危険なことなのですが、それでも各地で放流を行う人がいるという事実があります。どうにかならないものでしょうか。

(2)乱獲しない・売買にかかわらない

タナゴの仲間は美しい色彩をしており、ついついたくさん採集したくなりますが、必要最小限だけの採集にとどめておくべきでしょう。実際に、この仲間が減少している理由のひとつとして、乱獲があるからです。

先述の採り子により乱獲された魚の行き先としては、観賞魚店やインターネットによるオークションなどがありますが、これらで魚を購入するということは、乱獲を助長することになりかねません。

淡水魚は乱獲に弱い。必要最小限だけお持ち帰りしたい(提供:椎名まさと)

昨今は有名オークションサイトにおいては絶滅危惧種の出品に制限が加えられるなどの対策がとられていたり、有名観賞魚店において淡水魚トレーサビリティの導入や累代養殖魚の販売が行われたりするなど、“採り子対策”も行われるようになりました。

タナゴの場合、繁殖させるのに使う二枚貝について乱獲がおこなわれているという話も聞きます。このような乱獲に加担しないように、自ら採集に赴くべきでしょう。

二枚貝も自ら採集したい(提供:椎名まさと)

そして、その際も個体数の減少に加担しないよう、自ら採集に赴き、採集は必要最小限にとどめておくことが重要なのです。

(3)生息地を公開しない

淡水魚は採集し写真を撮影したあと、SNSなどにアップする際も原則として生息地を公開しないのが基本です。

絶滅が危惧されるような魚はもちろんのこと、普通種とされる魚であっても、多数の人が訪れるようなことになると採集圧がかかるおそれがあります。そのため淡水魚の生息地は公開しないのがマナーとなります。

タモロコ。背景が写りこんでいる(茨城県)(提供:椎名まさと)

また直接場所を公開しなくても、観察ケースで撮影している場合、背景に魚を採集した場所が写りこむことがあります。

ひとによっては道路のアスファルトの様子や周囲の植生から、どこで採集したかピタリと当ててしまう人もいるそうです。そのため、魚の種類によってはできるだけ背景が写りこまないような配慮が必要でしょう。

タモロコ。白いバケツと角度で背景を隠す(岐阜県)(提供:椎名まさと)

筆者の場合、採集してすぐに逃がす魚を除いて、帰宅後撮影することも多くあります。

(4)飼育情報はしっかり吟味を

淡水魚の飼育情報を仕入れるのはインターネットでの検索が楽ですが、必ずしも正しい情報とは限りません。

というのも、爬虫類など魚以外の生物でも同じですが、インターネットにおける飼育情報を掲載しているサイトというのは、現状「飼育していない生物を飼育しているように見せかけて書いている」というものがよくあるからです。

もしそれらを鵜呑みにして、魚が短期間で死んでしまった場合、すぐにまた採集したり購入してまた死んでしまう……ということを繰り返す人がでてくる可能性があり、結果的に消費的な飼育につながりやすいという問題があります。

60センチ水槽+投げ込みろ過槽でもタナゴ類は飼育可能(提供:椎名まさと)

筆者は飼育経験がない種を新たに飼育しようとしている際、ベテランアクアリストや実際に飼育している人のSNSで直接質問をして、飼育情報を手に入れています。

従来は淡水魚を実際に飼育している人のWEBサイトは多々見られたのですが、古くからあるプロバイダ系のWebサイトが近年続々とサービス終了してしまい、信頼性の高い貴重な情報が失われつつあります。

(サカナトライター:椎名まさと)

参考文献

藤岡康弘、川瀬成吾、田畑諒一(2024)、琵琶湖の魚類図鑑、サンライズ出版

中坊徹次編(2013)、日本産魚類検索 全種の同定 第三版、東海大学出版会

向井貴彦(2019)、岐阜県の魚類 第二版、岐阜新聞社

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椎名まさと

魚類の採集も飼育も食することも大好きな30代。関東地方に居住していますが過去様々な場所に居住。特に好きな魚はウツボ科、カエルウオ族、ハゼ科、スズメダイ科、テンジクダイ科、ナマズ類。研究テーマは魚類耳石と底曳網漁業。

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