「今までにない図鑑を目指した」
続いて、でんかさんのトークショーに移ります。

でんかさんは北海道・函館出身で、大学入学に合わせて上京。地元では美味しい魚は多いものの見た目が地味な体色のものが多く、本州の磯で普通に見られるカラフルな生きものたちに感動したといいます。
そして、大学在学時に出会ったベニホンヤドカリに心を奪われ、ヤドカリにのめり込んだのだとか。

ヤドカリは、磯、藻場、マングローブ、サンゴ礁、干潟と種によって生息環境が異なることから、「北海道から沖縄まで、離島にも数十回は訪問し、小笠原には数ヶ月滞在した」と述懐。フィールドで採集をしている時以外は、図書館で本を読むことが多かったそうです。
一方、誰もがぶつかる“壁”として、大学4年間の後に進学するか就職するかで悩んだことも明かしました。
でんかさんがこれまでに制作してきた同人誌(提供:SAKANA BOOKS)最終的には副業の活動を継続できること、フィールドに出る時間や大好きな本を読む時間を確保することを優先して、増養殖・育種に関わる民間企業への就職を決意したといいます。
著書2冊のこだわりポイント
今夏出版した2冊の著書についても、それぞれのこだわりを語りました。

『今すぐ見つけに行きたくなるヤドカリ探索図鑑』は5章立て。第2章の図鑑パートでは今までにない図鑑を目指したといい、どういった環境で見られるのかをビジュアルでまとめたのが特にこだわったそうです。
また、ゴマフヒメホンヤドカリなどヤドカリ3種の和名を提唱したこともポイントだといいます。

『海のあかちゃん』は、指先に乗るサイズから大人になっても手に乗るサイズの生きものがコンセプト。
可愛い生きものだけでなく、専門性も出したいということで、コラムではビーチコーミングで拾ってきた小さな貝や海藻などにもフォーカスを当てたのだとか。
次世代の無脊椎アイドルは?
対談のテーマは「メンダコの次にくる無脊椎動物のアイドル」。

でんかさんは「メンダコが深海生物なので、私は浅海動物を推したい。中でもマガキガイは一押し」と推薦。
マガキガイは硬い貝殻を持っている貝で、発達した二つの眼でぎょろぎょろと周りを見渡す姿や、発達した足を持っていてぴょんぴょんと動き回る姿、特徴的な像の鼻のような口を伸ばす姿など見ていて飽きないのがポイントだと熱く語りました。

むせきつい屋さんは「イカはもっと流行ってもいい。ダンゴイカはぽてっとしていて可愛い」と候補に挙げつつ、一押しはやはりウミクワガタ。「世の中には節足動物が苦手な人はいるけどやっぱり可愛い」と笑顔で話し、他にも「ウミホタルも丸っこくて可愛いし、発行生物で青く光るのでグッズ化もできそう」と具体的なアイデアを交えて推薦しました。
一方、会場からは「カラッパ」の意見も。でんかさんは、カラッパについて「可愛いけれど、缶切り状の鋏で巻貝などを砕いて食べるというギャップが面白い」と納得の様子で、「砂に潜るのもうまいし、美脚で細長いスレンダーな足でテケテケ歩く様子は特徴的」と語りました。

「まだ飼育が確立されていない」 天敵のいない自然下の再現を
ゲスト二人への質問コーナーでは、「飼育しているヤドカリがポップコーンしか食べません。そのうち脱皮不全になってしまいそうで不安」「ヤドカリが長生きするためのコツは?」などヤドカリの飼育に関する質問が多数ありました。

でんかさんは「ヤドカリは寿命の推定ができていない生きもので、まだ飼育が確立されていない」としたうえで、「脱皮をうまく成功させること、そのために必要な栄養素を与えること。そして、脱皮直後はデリケートなので、なるべく刺激を与えないのが大事」と回答。
別の生きものや他のヤドカリの刺激で死に至ることもあるとして、単頭飼育を推奨しました。

また、「ポップコーンしか食べない」という質問に対しては、個体差があると前置きした上で、「自分だったらポップコーンをあげないで他の餌をあげる。すると、いつか他のえさも食べるかも」と答えました。
そして、最後に「天敵のいない自然下の再現が一番」だとまとめました。
ウミクワガタの立派な顎 目的・理由はまだ研究半ば
「ウミクワガタを見たことがないが、どういった魚についているのか」という質問には、むせきつい屋さんが「色々な魚にくっついているが、泥とか砂の中にいるので、ハゼなど底にいる魚が多い。でも、サメやエイにもつく」と回答。
さらに「すぐに離れるからなかなか見られない。魚釣りなどで見ることができたらラッキー」と説明しました。

また、「大人(成体)になると何も食べず、子どもの頃に蓄えた栄養のみで生きる。大人になってから1年くらい生きる種もいる」とし、「捕食しないのに顎はなんでこんな形なのかなど不明なことも多い。一部で泥の中に巣穴を作る種がいて、オスがメスを掴んで自分の巣に引き寄せるという知見もある」と解説しました。