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がん研究やワクチン開発などに貢献する魚<ゼブラフィッシュ> 非常に有益なモデル動物?

観賞魚としてよく知られるゼブラフィッシュですが、ヒトの役に立つ研究にも使われることを知っていますか?

実は、古くから薬剤の毒性試験などにも利用されています。ゼブラフィッシュはヒトとの共通点が多いため、ヒトの疾患モデル動物としての活用研究が盛んです。

今回は、ゼブラフィッシュがどのような点でヒト疾患モデル動物として優位性があるのか、そしてどのような活用ができるのか。元バイオ研究者である筆者が解説します。

ゼブラフィッシュとは?

ゼブラフィッシュ(学名:Danio rerio)はインド原産の約4センチほどの淡水魚です。体にきれいな銀色と青色の縞模様があることから、シマウマ(ゼブラ)にちなんで、この名がつきました。

ゼブラフィッシュ(提供:PhotoAC)

飼育も繁殖も容易なことから観賞用に飼育されることが多く、ペットショップなどで「ゼブラ・ダニオ」という名前で売られています。

コイ目コイ科ラスボラ亜科に属する魚で、オイカワやコイの仲間です。縄張り意識が強いため、他の魚との混泳にはあまり向きません。

ヒト疾患モデルとは?

ヒト疾患モデルとは、人間の病気のメカニズム解明のために利用される実験動物のことです。

交配や遺伝子操作などによって人間の病気を再現することができるようにした、げっ歯類などが多く用いられてきました。

ヒト疾患モデルマウスのイメージ(提供:PhotoAC)

特に、マウスやラットでは糖尿病になったり、アトピーを起こしたりする数多くのヒト疾患モデルが生み出されています。

ヒト疾患モデルとしてのゼブラフィッシュ

現代では動物福祉を考慮し、動物実験をなるべく実施しない流れになっています。しかし、どうしても生体で確認しなければならない事柄があるのも事実です。

そのため、できるだけ飼育が容易で、ヒトに近い哺乳類ではなく、痛みなどの知覚があまり発達していない動物を使用することが望まれます。

遺伝子操作された魚のイメージ(提供:PhotoAC)

そこで白羽の矢がたったのが、ゼブラフィッシュやメダカなどの魚類。特にゼブラフィッシュはヒトと同じ脊椎動物であり、ヒトと共通した働きをもつ遺伝子が70%程度もあるため、ヒト疾患モデル動物として様々な研究に用いられるようになりました。

ゼブラフィッシュを用いる利点

ゼブラフィッシュは魚類であるため、哺乳類とくらべて、いちどに多くの卵が得られること、成長や繁殖期間も短くて結果が得られやすいことなどの利点があります。全ゲノムの解読も完了しており、遺伝子操作が簡単であることも大きな利点です。

また、受精卵から個体ができるまで(胚発生と呼ぶ)の一連の状態が透明で顕微鏡などで観察しやすく、研究に都合が良いという利点もあります。

さらには、体のつくり、臓器の構造や機能もヒトに似ているため、非常に有益なモデル動物なのです。

どのようなヒト疾患モデルとして活用できるのか?

ゼブラフィッシュはヒトに類似した免疫システムを持つので、免疫応答の研究が可能です。

また、皮膚発生に関与する遺伝子群はヒトとの類似性が高く、皮膚の疾患モデル研究に応用できます。

がん転移(提供:IllustAC)

なお、ゼブラフィッシュの発生初期は免疫システムが働かないため異種抗原(ヒトの細胞など)が排除されず、がん移植の研究に利用可能です。

ワクチン開発

これまで結核菌、赤痢菌、サルモネラ菌などの病原菌やノロウイルス、C型肝炎ウイルスなどのウイルスへのワクチン研究に使われています。

検証期間を短縮でき、効果の有無や副作用などの判定が迅速にできるため、有望なスクリーニング方法として用いられます。

皮膚炎モデル

コラーゲン産生だけでなく皮膚炎における炎症のシグナル伝達経路もヒトと同じNF-kB(エヌエフカッパービィ)という転写因子群が関与することも判明。そのため、炎症のメカニズムもヒトに類似しており、膠原病やアトピーなどの病気の解明に役立つことが期待されます。

がん転移モデル

がんの転移メカニズムは遺伝子の変異など複雑な原因が絡むため、非常に解明が困難です。動物実験では異種抗原の移植(マウスへのヒトがん細胞を移植)となるため、免疫抑制剤の投与が必要となります。

このような本来の生体内部環境とは異なる状態では明確な結果を得られにくいのですが、ゼブラフィッシュでは回避可能。複雑ながん転移メカニズムが解明できれば、創薬研究が進み、がんで亡くなる人を救えるかもしれません。

遺伝子疾患モデル

ヒトの未解析のゲノム(生物がもつ遺伝情報の全体)変異をゼブラフィッシュに導入することで、遺伝子疾患モデルを作り出すことが可能です。これにより、新規治療薬の開発に繋げることが期待されます。

今後の研究成果に期待しよう

ゲノム編集による遺伝子操作(提供:IllustAC)

日本を含め、世界中でゼブラフィッシュを用いた創薬研究につながる研究が行われています。ゲノム編集などの新しい遺伝子編集技術も続々と確立されていくなか、ヒト疾患モデルの確立は病気の治療に役立つ成果につながるでしょう。

医学の道に進みたい人はもちろん、魚好きな人にもゼブラフィッシュの貢献を知ってもらい、水族館や自宅で楽しく観賞していただければ嬉しいです。

(サカナトライター:額田善之)

参考文献

新技術説明会-ゼブラフィッシュを用いた遺伝性疾患の発症リスクの判定法

やまなし産学官連携研究交流事業-ゲノム編集技術を用いたヒト疾患モデル・ゼブラフィッシュの作出

Bailone et al. Laboratory Animal Research (2020) 36:13
Zebrafish as an alternative animal model in human and animal vaccination research

Irene Russo et al. Discover Oncology (2022) 13:48
The Zebrafish model in dermatology: an update for clinicians

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額田善之

額田善之

人生を楽しもう!

愛媛大学理学部生物学科卒の生粋の生き物大好きライターです。特に魚が好きで、子どもと水族館巡りや釣りを楽しんでいます。オートバイで旅をして産地の珍しい魚を食べるのも趣味です。旅行や納豆の記事をよく書きますが、今回から水生生物についても執筆していきますので、よろしくお願いいたします。

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