夜間の人工照明は都市の発展とともに増加しており、生き物に影響を与える要因として注目されています。
一方、夜間人工光が生き物の行動や生理に対する短期的な影響は研究されてきたものの、長期的な影響が分布や進化にどう影響しているのかは、十分に検証されてきませんでした。
そうした中で、千葉大学国際高等研究基幹・大学院理学研究院の佐藤大気特任助教は、都市特有の環境がフナムシ類に与える影響を調査。夜間人工光の強さとフナムシ類の分布の関係性を明らかにしました。
この研究の成果は「PNAS Nexus」に掲載されています(論文タイトル:Metropolitan coastal night lighting aligns with ecological and plastic divergence in closely related Ligia isopods)。
都市部の沿岸では人工照明が増加傾向
世界的に見ても、都市の発展とともに夜間の人工照明は増加傾向にあります。
この夜間人工光は動物に影響を与える要因として注目されており、生物の行動や生理に短期的な影響を及ぼすことが報告されてきました。一方、長期的な影響が生き物の分布や進化にどう関わるのかは十分に検証されてこなかったといいます。
夜の東京湾(提供:PhotoAC)そうした中で、千葉大学国際高等研究基幹・大学院理学研究院の佐藤大気特任助教は、夜間人工光の影響を受けやすい都市部の沿岸において、都市特有の環境がフナムシ類に与える影響を調査しました。
都市に暮らす生き物への影響
沿岸生態系は人間活動の影響を受けやすい環境の1つであり、都市部では夜間照明だけでなく護岸や消波ブロックにより生息空間が限定されています。
こうした環境では、個体が他の地域へ移動して影響を回避することが困難なため、環境条件が生き物の行動や適応に強く反映されている可能性があると考えられているのです。
沿岸の普通種フナムシ
フナムシ類は、岩礁や護岸などでごく普通に見られる沿岸性の等脚類です。
彼らは海から離れて生活することができないため、都市化した沿岸の影響を強く受けると考えられています。
また、フナムシ類は発達した視覚をもっており、周囲の光環境に応じて、行動や体色を変化させることが知られているようです。
アオホシフナムシと思われる個体(提供:PhotoAC)近年の研究では、日本に生息するフナムシに複数種含まれていることが判明し、アオホシフナムシ、フタマタフナムシ、トライフナムシの3種に分類されました。
しかし、これらのフナムシ類の分布や行動と都市環境がどのように関係しているのかは十分に調べられていなかったといいます。
都市特有の沿岸環境が分布や行動にどう影響するか
そうした背景もあり、研究チームは都市特有の沿岸環境がフナムシ類の分布や行動に、どう影響しているのかを明らかにすべく、様々な視点から調査・研究を実施しました。
東京湾全域を対象にフィールド調査、ゲノム解析、室内飼育での行動実験によって、都市化した沿岸環境がフナムシ類の分布や行動にどう影響しているのか検証したのです。
内湾部と外湾部で異なる種が生息
これらの実験・調査の結果、東京湾では北緯 35.2度付近の湾奥狭窄部を境に内湾部と外湾部で生息するフナムシ類の種類が明瞭に異なることが判明。
内湾部ではアオホシフナムシが優占する一方、外湾部ではフタマタフナムシが主に分布していることがわかったのです。
また、内湾部ではいくつかの地点でキタフナムシも確認されており、船舶などによる移入の可能性が示唆されています。
夜間人工光による影響が明らかに
各調査地点の環境データを解析した結果では、アオホシフナムシの分布は夜間人工光と強く関係していることが明らかになっています。
この結果を受けて、研究チームは室内実験をおこない、生育時に夜間光に暴露させた個体と、暗条件で育てられた個体の比較。長期的な影響を検証しました。
すると、生育時の夜間人工光の暴露は、フナムシ類の活動リズムや生存率に影響することが確認され、影響の強さは種によって異なることが判明。外湾部で暮らすフタマタフナムシは影響が大きかった一方、内湾部に生息するアオホシフナムシでは影響が小さかったといいます。
この結果から、夜間人工光は一時的な行動の変化だけでなく、生物の生理的特性に大きく影響を与える可能性があること、その影響が種によってことなることを明らかになったのです。
利便性と自然環境の両立
今回の研究により、夜間人工光が生物の行動に影響を与えること、その影響の大きさは種によって異なることが明らかになりました。
研究チームは研究結果が、都市の利便性と自然環境の両立を考える上で、身の回りの光を見直すきっかけになれば、としています。
(サカナト編集部)