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新進気鋭の鮮魚店「サカナバッカ」の店長に話を聞いてみた【魚食のこれから】

2011年の頃の統計から、魚食の消費量は肉食を下回り、現在も下降の一途を辿っています。我々の素晴らしい魚食文化は、これから衰退するばかりなのでしょうか……? そんな危機感を覚える一方で、これからの魚食の盛り上がりを感じさせる新たな風をほうぼうで見ることがあります。魚食に親しむために、「魚食の楽しみとは何か?」という根源的なところまで探っていきます。さあ、もう一度魚と触れ合ってみませんか?

今回は、都内近郊で一際大きな風を巻き起こしている、鮮魚店「サカナバッカ」の躍進を探るため、サカナバッカ中目黒店の岡部拓也店長(株式会社フーディソン)に話を聞きました。

サカナバッカの店長になるまで

子どもの頃から魚が好きで水産系の大学を卒業した後、スーパーの鮮魚部門で働き、魚の加工や調理の技術を身につけました。仕事をしているうちに水産業界の流通に興味が湧きはじめ、水産系の会社で営業職を、水産卸の会社でバイヤー職をやらせてもらいました。

そうして、水産業界の仕事を幅広く経験してからサカナバッカを運営するフーディソンに入ったんです。

サカナバッカ店長の仕事

フーディソンに入社したのは、2015年のサカナバッカ中目黒がオープンしたときです。サカナバッカ中目黒の店舗運営スタッフとして入社し、半年ほどで店長業務を任されました。現在もサカナバッカ中目黒の店長をしています。

僕の仕事は、売上やスタッフの管理業務のほか、仕入れや値づけ、売り場づくりが主な領域です。夕方に次の日に何を売るかを決めて発注し、朝納品されたら、値づけをして、午前10時のオープンまでに売り場を作るという流れですね。

お店に並んでいる魚は基本的に天然物が多いので、日によって相場が変わるんですよね。ですから、夕方頃に流れてくる相場の情報は毎日見ています。「今日はタチウオがちょっと安いな、たぶん豊漁だったんだな」と思ったら、次の日はタチウオで攻めてみようとか。そんなことを考えながら、仕入れや売り場づくりをやっています。雨が降ったり風が強かったりすると、だいぶ相場にも影響が出るので、目が離せませんね。

普段の仕入れは、フーディソンの〈魚ポチ〉という生鮮ECサービスを使ったり、サカナバッカの専属バイヤーが豊洲に仕入れに行ったりするのが基本なんですけど、産地と直接やり取りして、魚を直送してもらうケースもあります。

サカナバッカを利用するお客様

サカナバッカの主な客層は、基本的には女性の方が多いです。土日になると客層が変わって、若いカップルも多いですね。車で来られる方も多い。

「たぶん、ご自宅でみんなで手巻き寿司をやるんだろうな」「お刺身パーティーをするのかな」と思うような、たくさん買っていかれる方もいらっしゃいます。そういうハレの日のイベントというか、みんなでワイワイ楽しむパーティー需要は、サカナバッカに多いのかなと思います。

「あそこなら、いろんな魚があるよね」と、お客さんに知っていただいている感じはありますね。

サカナバッカの面白いところ

市場ではあまり流通しない低利用魚を取り扱っているところ。低利用魚の需要については、最初は本当になかったんですが……僕たちがお客さんを育てたという実感があります。

珍しい魚が入ったら、「こんなに面白い魚がいて、すごく美味しいんですよ」と対面で接客をしています。実際に買って食べてもらったらやっぱり美味しくて、また来てくれて……とやっていくと、だんだん珍しい魚にも抵抗がなくなるようです(笑)。そこでまた口コミで広がって、売れてきたという感じですね。ですから、お客さんがお店の中で魚をじっと見ていたら、こちらからお声がけして、「今日はこういう珍しい魚が入ってますよ」「今日はこれがお買い得ですよ」と、話しかけるようにしています。

ただ、それでも、実際に見たことのない、触ったことのないお魚をすすめるのは難しいんですよね。魚って、見ただけで「美味しそうだな」と思うときがあって、例えば顔がちっちゃくて、背中の肉づきが良くて、いかにも美味しそうな魚がいたら、「もうこれ絶対おすすめです。後悔させません」みたいな、思い切って強くアピールすることは、何回かやったことがあります。もちろんそこは自信を持っておすすめしているわけですが。そこで美味しいと思ってくれた人がまた来てくれて、つながりを作っていったことで、低利用魚をだんだんと広めていくことができました。

ちなみに、日本近海のお魚は3300種類ぐらいで、そのうち量販店に流通しているのは海藻なども含めて約30種類くらいと言われています。サカナバッカは、こうした従来の流通にこだわらず品揃えを均一化しないで、なかなか流通しないものを売る、というところで差別化を図っています。

そのチャレンジは決して簡単なものではありませんでしたが、2014年から現在まで、サカナバッカで取り扱った魚種の合計は、約800種類にものぼります。

サカナバッカで力をいれていること

新鮮で美味しい魚を用意するために、産地仕入れの鮮度の良い魚を扱うようにしています。あとは季節に合った商品づくり。冬場であればお鍋のセット、夏場であればすぐ食べられるカルパッチョなどの冷菜をご用意しています。

魚をお持ち帰りになるときは、手ぶらで来られても氷をたくさん入れてお渡しすることはできますし、オリジナルの保冷バッグもご用意しています。あとお客さんによっては、クーラーボックスを持参される方もいらっしゃいます。氷をしっかり入れれば、保冷バッグでも、1〜2時間はもちますよ。

あとは、インスタグラムやその他のSNSによる毎日配信です。魚の面白い一面を動画で撮ったり、ちょっとした魚の知識を配信したりして、楽しさを伝えようとしています。それを見た方が、「面白そうだから行ってみようかな」と思って来てもらう、そういう発信がお客さんの行動にはつながっているように思っています。

サカナバッカの強み

魚屋さんって、臭い、汚い、怖いイメージが多くの一般消費者の方にあったと思うんです。そこで、お魚は好きだけど、魚屋となると遠い存在に感じられていたところを、もうちょっと親しみやすくモダンでお洒落に、というイメージに一新し、そのブランドを守って展開してきました。

あとは店舗社員のフレキシブルな対応も強みです。我々は産地の情報や、お魚の美味しい食べ方をたくさん持っているので、そういったところをお客様に細かく対面でお伝えしているのは、サカナバッカの強みですね。

サカナバッカのオリジナル商品

サカナバッカのオリジナル商品として今一番売れているのは<パリッパリィ>という、シラス100%の柔らかいおせんべい。カルシウムをしっかり摂れるのも人気の理由だと思います。年配の方だとカルシウム不足を心配されることもありますが、これだと気軽に食べられるので。シラス100%で余計なものが一切入っていない、という安心感もあります。

子どものおやつに買っていかれるお客様も多いですね。なかなか魚を食べないという子どもも多いと思うんですけど、柔らかいおせんべいなので、子どもも進んで食べてくれるようです。まとめ買いしていかれる方もいますね。

あと最近だと、<いちゃキムチー>という商品もおすすめ。<いちゃキムチー>は、沖縄で捕れるトビイカという種類のイカを、キムチと和えたものです。沖縄の方言でイカのことを〈いちゃ〉と言うそうなんですね。

トビイカは低利用魚で主に沖縄でしか消費されていません。そこで沖縄県漁連さんから、「沖縄の食文化をもっと守りたい」というご相談をいただき、我々のバイヤーが商品開発をしました。もともと都内で流通していない素材ですから、とても珍しい一品です。

トビイカは、その名の通り海上を飛ぶイカで、50メートルぐらい飛ぶそうです。ですから、ポップにも「空飛ぶイカって知ってる?」というキャッチを入れて、「こんなイカがいたんだ」と、その生態を知ってもらえるようにしています。

サカナバッカでできる<体験>

魚をさばいて食べる日本の文化を守りたいということで、子どもにさばき方を教える講座を日本財団の<海と日本PROJECT>さんと一緒に取り組んだりしました。子どもの魚屋職業体験をやったり、あとは巨大魚の解体ショーも結構やっています。その場でお刺身を食べて、お酒を飲んで楽しんでもらったりもしましたね。

牡蠣の食べ比べ祭りでは、いろんな産地の牡蠣を7種類ほど集めました。笑い話ですが種類が多すぎてスタッフも混乱してましたね(笑)。貝祭りでも、いろんな種類の貝を並べました。

客足の遠のく夏場には、魚さばき教室の告知を店頭に貼って、1~3人ほどの小規模レッスンをしたりすることもあります。お店に入れる人数に制限があって大人数は集められないのが難点ですが。

やはりアイスベッドの見応えがありますね。アイスベッドにいろんなお魚が置いてあるというのは、まさに〈見て楽しむ〉につながります。イベントもそうですけど、<体験できるお店>というのは、そういうところでも体現しています。

今日(取材は2023年6月中旬に実施)、アイスベッドにコバンザメが一尾いたんですけど、すぐに売れちゃいました。コバンザメの味はカンパチとかに近いんです。脂の乗りもすごく良くて、美味しい魚ですね。

個人的にサカナバッカがコバンザメを日本一売っている魚屋だと思っています(笑)。500尾くらいは売ったかな。

しながわ水族館さんとコラボした、ぬりえコンテストもありました。マダコ、ウツボ、エビスダイ、イシダイの中からひとつぬり絵を選んでもらい、SNSか郵送で投稿してもらったんです。これも体験と言えますね。

これからのサカナバッカ

肉と比べると、魚を買うのはどうしてもお客さんにとってハードルが高いんです。肉であれば骨もないし、そのまま焼いてすぐ食べられたりします。魚だと臭いが気になる方もいるし、丸魚をどうやってさばけばいいか分からないお客さんもやっぱり多い。

そのハードルをどうやって下げるのか?というのが、やっぱり課題として常にあります。それにはまず、僕らが接客でどういう説明をするか。スタッフ全員、ちゃんと魚の説明ができるようになっているか。そういう基本的なところをしっかりやって、いろんなところからお客さんに来てもらいたいですね。

この同じ地域にも、いろんなスーパーがありますが、値段よりも商品に特徴を持たせて面白いお店にしていきたいです。それを売り上げにつなげ、ゆくゆくは店舗を増やしていけたらいいなと思います。

※本記事は『サカナト』創刊準備号に掲載された記事を再編集したものです。

(サカナト編集部)

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サカナに特化したメディア『サカナト』。本とWebで同時創刊。魚をはじめとした水生生物の多様な魅力を発信していきます。

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