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完成までに1年かかる福井の発酵食品「へしこ」 2段階の熟成を経る独特な製造方法

日本には味噌、しょうゆ、納豆など、たくさんの発酵食品が存在し、私たちの生活には欠かせないものとなっています。これらはいずれも大豆を使用したものですが、実は日本には魚を使った発酵食品も多く存在します。今回は福井県の「へしこ」を紹介します。 

「へしこ」とは 

「へしこ」は福井県を中心に京都府、石川県などの日本海側で作られている伝統的な糠漬けです。

「へしこ」の語源には諸説ありますが、重石をのせて漬け込むことの「圧し込む」説やアイヌ語が語源説、魚を塩漬けにした際に滲み出る水分「ひしお」が転訛(てんか)したもの説があります。

「へしこ」の原料にはハタハタ、イワシ、サバ、フグなど様々な魚が使われ、同県の茱崎漁協ではシイラやイカを使用した「へしこ」の製造も行っていました。

へしこ(提供:PhotoAC)

「へしこ」の中でも最も有名なのはサバを使用した「さばのへしこ」です。特に秋の脂がのった時期のサバを使用した「へしこ」は絶品とも。

現在ではノルウェー産の脂がのったノルウェーサバを使用しています。ノルウェーサバを原料とすることで一年中美味しくて品質の安定した「へしこ」を楽しむことができます。

現在「へしこ」はお土産屋や通信販売などでも売られており、だれでも簡単に手に入れることができます。 

へしこの町・美浜町 

「へしこ」はその伝統的な製造方法や歴史から、2007年12月に「農産漁村の郷土料理百選」、2021年に文化庁の「100年フード」にも選ばれています。

福井県の南西部に位置する美浜町は美しい海が有名ですが、「へしこ」でも製造も盛んです。2005年には「へしこの町」として商標登録され、秋サバをモチーフにしたPRキャラクターである「へしこちゃん」まで誕生しました。

さらには2015年には「美浜へしこ組合」が設立され、2019年に地域団体商標登録されるなど「へしこ」の販売拡大を目指しています。

へしこの歴史 

「へしこ」は江戸時代には既に作られていたと考えられています。

当時の漁船は小型の船が多く、海況が悪いと漁に出られない日もありました。特に冬の日本海は雪が降り海も荒れるので、厳しい冬を過ごす為の保存食が必要でした。

「へしこ」は当時の貴重なたんぱく源であり、人々から重宝されていたといいます。「へしこ」のように魚の発酵食品は同様の経緯で発明されることが多いです。

例えば、伊豆諸島のみで製造されている「くさや」も元々は保存食でした。

へしこの製造方法 

「へしこ」の製造方法は独特で、塩漬けと糠漬けの2段階で熟成させます。

まず、サバを背開きにして内臓を取り除いた後、1週間ほど塩漬けにして水分を抜きます。ここまでは普通の塩漬けと変わりませんが、「へしこ」の場合、塩漬けからさらに数か月から1年をかけて糠漬けにすることが特徴です。この作業が深みのある味を生み、「へしこ」を「へしこ」たらしめるのです。

地域差はありますが、糠漬けの際、製造者によって麹、醤油、酒、唐辛子などを加える場合もあり、味がまろやかだったり辛味があったりします。さらには「へしこ」をさらにコチュジャンに漬けなおして仕上げた「へしこジャン」や、「へしこ」をより手軽に楽しめるように工夫された「へしこオイル」という商品も開発されています。 

福井県では、県内で製造される農産物・水産物を主原料とした加工食品や伝統的な方法で製造される加工食品を「厳選ふくいの味」として認証しています。

「さばのへしこ(糠漬け)」の認証基準ではサバの産地は国内外を問わないものの、糠は福井県産のものを使用していることや、食品添加物を使用していないこと、安全性が確保されていること、概ね一年ほど発酵熟成させたものであることなどが条件として挙げられています。 

「へしこ」の食べ方は多種多様 

「へしこ」は塩分を多く含んでいながら健康食品としても知られています。

「へしこ」にはアミノ酸、ビタミンE、フェルラ酸が含まれており、血液をサラサラにする効果や血圧の抑制、疲労回復、メラニンの生成を抑制する効果が期待されています。 

へしこのスライス(提供:PhotoAC)

そんな「へしこ」の食べ方は多種多様です。生のままスライスして糠を落とさずに軽く炙って食べても美味しいですが、塩分が気になる人は糠を落として食べたり、お茶漬けにして食べたりすることもおすすめです。また、パスタやピザの具材として使っても相性抜群です。 

伝統的な方法で製造される「へしこ」。元々は保存食でしたが現在では手軽に楽しめる商品も多くあります。見かけた際にはぜひ手に取ってみてはいかがでしょうか。

(サカナト編集部) 

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