岡山大学学術研究院環境生命自然科学学域の福田宏准教授、東京大学大学院理学研究科の澤田直人特任研究員、獨協医科大学大学院医学研究科の桐木雅史講師の研究グループは、沖縄県から未知の巻貝を発見し、新亜種として記載しました。
この研究の成果は「Malacologia」に掲載されています(論文タイトル:Oncomelania hupensis iriomotensis n. subsp. (Caenogastropoda: Truncatelloidea: Pomatiopsidae)from waterfalls in Iriomote Island, Okinawa, southern Japan.)。
西表島から見つかった未知の巻貝
未知の巻貝が見つかったのは2020年の沖縄県西表島。第一発見者は、澤田研究員とその同行者です。
この巻貝は山中にある滝の周囲で、飛沫を浴び常に濡れている岩盤の上や、そこに繁茂するシダ類の間から発見されました。
西表島の山(提供:PhotoAC)南西諸島においては、同様の環境に特異的に産する巻貝類は一切知られおらず、形質はむしろ本州日本海側の豪雪地帯に固有のシブキツボ属に似ていたといいます。
しかし、未知の貝を受け取った岡山大学の福田准教授は、這う様子を眺めていたところ、この貝がミヤイリガイだと気付いたようです。
その後、DNA解析と解剖学的な特徴を調べた結果、未知の巻貝がミヤイリガイと同種別亜種であることが判明。イリオモテミヤイリガイ Oncomelania hupensis iriomotensis と命名されました。
日本住血吸虫の中間宿主としても知られる<ミヤイリガイ>
ミヤイリガイ(カタヤマガイ)Oncomelania hupensis nosophora は、緩い流水や止水域の植物の根元などに見られる小さな巻貝です。
この巻貝は日本住血吸虫 Schistosoma japonicum の中間宿主として知られており、この吸虫が引き起こす日本住血吸虫症は、重篤な症状を引き起こし死に至ることもあるといいます。
そのため、日本住血吸虫症の原因も不明で特効薬もなかった時代、ミヤイリガイの個体群が存在していた地域では、多くの罹患者や死者が長年にわたり発生していました。
現在ミヤイリガイは絶滅危惧種
後に、ミヤイリガイが病気を媒介すると明らかになり、それ以降の1910~70 年代は予防策として積極的な駆除活動がおこなわれています。
その結果、国内の大半で絶滅し、1980年代までに日本住血吸虫症の国内感染例が完全に途絶えたのです。これにより1996年、国内最大の流行地であった山梨県において「流行終息宣言」が出されました。
現在、日本住血吸虫は日本に存在しません。ミヤイリガイも山梨県にわずかに生息するのみであり、この巻貝は環境省レッドリストで絶滅危惧 I 類(CR+EN)に分類されています。
日本住血吸虫症の心配は必要なし
こうした歴史から、ミヤイリガイと日本住血吸虫を結びつける人は少なくありませんが、沖縄県西表島から発見された新亜種のイリオモテミヤイリガイについては、現地での環境DNA解析や感染実験などから、日本住血吸虫の中間宿主となる可能性は示されていません。
研究グループは、現時点でイリオモテミヤイリガイと日本住血吸虫で直接的な関係は見い出されていないため、風評被害を招くことがないように謹んでほしいとしています。
本新亜種は西表島の中でもごく限られた狭い範囲のみから確認されている稀少な巻貝。近年、西表島の自然は人間活動により悪影響が懸念されていますが、イリオモテミヤイリガイは稀少性が高く絶滅が危惧されることから、保全措置が必要とされています。
イリオモテミヤイリガイの保全措置へ
今回の研究により、西表島の山中から発見された未知の巻貝が、未記載種であることが判明し、新亜種として記載されました。イリオモテミヤイリガイの生息地は極めて狭いことなどから保全措置が強く求められています。
また現在、イリオモテミヤイリガイと日本住血吸虫の直接的な関係は見出されておらず、中間宿主となる可能性は示されていません。
ただし、研究チームは日本住血吸虫症から人間が偶発的に吸虫類を移入させてしまった場合、なにが起こるかわからないと指摘しています。外来種の移入には、地域・国内外問わず、今後より一層気を付けなければいけません。
(サカナト編集部)