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イルカとベルーガの肺炎をどう診る? 名古屋港水族館が“肺の炎症”を直接見る新たな指標を提案

名古屋港水族館で飼育されているイルカとベルーガを対象にした「肺炎の診かた」を探る研究が、獣医療系の国際学術誌『Veterinary Research Communications』に掲載されました(論文タイトル:Neutrophil differentials in bronchoalveolar lavage fluid in bottlenose dolphins (Tursiops truncatus) and beluga whales (Delphinapterus leucas) during treatment of respiratory infection: a preliminary study)。

本研究は名古屋港水族館と岐阜大学の共同研究で、気管支肺胞洗浄液(BALF)という、肺の奥から採取した液体の中に含まれる白血球の一種「好中球」に注目し、その割合がどの程度、下部呼吸器の感染や炎症の指標として使えるかを検証したものです。

イルカとベルーガの「肺の炎症」をどう調べた?

研究の対象となったのは、名古屋港水族館で飼育されているバンドウイルカ3頭とベルーガ3頭です。

その中には、細菌やカビによる呼吸器感染症で治療中の個体、貧血や尾びれの傷など別の問題も抱える個体、そして健康な個体が含まれており、それぞれについて気管支肺胞洗浄液(BALF)と血液検査、ブロー(息)の検査を行いました。

イルカのブロー(提供:PhotoAC)

BALFは、全身麻酔ではなく鎮静下で気管支鏡を用いて肺の奥に生理食塩水を入れて回収する方法で採取され、細胞の割合(好中球やマクロファージなど)や、含まれている細菌・真菌が詳しく調べられました。

一方、血液では白血球数、フィブリノーゲン、血清鉄など、一般的に炎症の指標とされる値を追跡し、ブロー検査では非侵襲的な方法で検出される微生物との違いも比較しています。

見えてきた「BALFの強み」

呼吸器の感染だけを抱えていた個体では、病気が重い時期にBALF中の好中球の割合がおよそ47〜56%と高く、血液中の炎症マーカーも上昇していましたが、治療が進むとBALF中の好中球が1〜4%程度まで下がり、血液の数値も正常範囲に戻りました。

一方、肺炎に加えて尾びれの傷や鉄欠乏性貧血など他の病気を併発していた個体では、BALF中の好中球は治療とともに低下したものの、血液の炎症マーカーは高いままで推移したケースが確認されました。

この結果から、血液検査の値は全身のさまざまな炎症の影響を受けるのに対し、BALF中の好中球の割合は「肺そのもの」の炎症をよりダイレクトに反映している可能性が高いと考えられました。

研究チームは暫定的に、BALF中の好中球割合が30%を超えると下部呼吸器の感染が疑われる目安になるとしていますが、約28%とやや低い値でも細胞内に細菌や真菌が確認された例があり、今後さらに症例を重ねて基準値を精緻化していく必要があるとしています。

ブロー検査との違い

同時に行ったブロー検査では、検出される細菌やカビの種類がBALFで見つかった病原体と一致しないことが多く、健康な個体や、治療が終了して肺炎が治った個体からも多様な微生物が検出されました。

このことから、ブローは動物への負担が少ない「スクリーニング」には適している一方で、肺の奥の病原体を特定するにはBALF検査の方が信頼性が高いと結論づけられています。

今後の展望は?

今回の論文は、名古屋港水族館と岐阜大学による共同研究で、鯨類の肺炎診療において「BALF中の好中球割合」と「血液中の炎症マーカー」を組み合わせて評価するという新しい診断の視点を世界に向けて提案する内容です。

鯨類の呼吸器感染症は、野生個体の保全や飼育動物の福祉の面でも大きな課題となっており、今回の成果は今後、国内外の水族館や保護施設での診療にも活用されることが期待されています。

(サカナト編集部)

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