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世界を旅する怪魚ハンターが生物多様性保全活動を始めた理由 小宮春平さんインタビュー

若くして世界に怪魚を探しに出る一方、十代のうちに福岡県・やながわ有明海水族館の館長に抜擢。現在は鳥取県を中心にさまざまな地域で生物多様性保全の活動を展開する小宮春平さん。無類のサカナ好きである小宮さんが、地道なフィールドワークの中で得てきた知見をじっくり語ってもらった。

小宮春平(こみやしゅんぺい):一般社団法人鳥取県地域教育推進局環境部。福岡県生物多様性アドバイザー。やながわ有明海水族館初代館長。福岡県レッドデータブック貝類分科会委員。八頭町地域おこし協力隊。十代後半より有志の団体、有明海塾に参加し、有明海の生物保全活動を展開。その後、活動のフィールドを鳥取県に移し、その豊かな自然の調査と利活用に取り組む。水生生物の調査を行いながら、自然環境を如何に社会に近づけられるか、教育という観点から模索。八頭町地域おこし協力隊として八頭をはじめ鳥取県東部の環境保全も行っている。福岡でも保全活動を継続しており、ヒシモドキをはじめとした希少種の保全、外来水草防除などに取り組む。

怪魚探しで世界に旅立つ

━━━小宮さんが生物保全の活動に関わるようになった時期やきっかけについて教えていただけますか。

小宮:子どもの頃までさかのぼりますね。自分はもともと見たことのないサカナを探し回るのが好きな、よくいる小学生でした。たぶんポケモン図鑑にポケモンを埋めていくような感覚だったんじゃないかなと思います。中学生の頃になって、塾に行く前に立ち読みしていた本屋で、当時海外で化けものみたいなサカナを探す釣りがちょっと流行していた時期だったので、そういった雑誌が目に入ったんです。「世界にはこんな化けものみたいなサカナがいるんだ」と影響を受けましたね。そこから海外も含めて、見たこともないサカナを釣ることに興味を持ち始めました。

高校生の頃までそんな感じでしたが、だんだん〝釣りたい〟という気持ちより、釣りじゃなくとも珍しいサカナを見つけられれば楽しいというふうになってきました。釣り人の気質として、他の釣り人と競ってしまうみたいな気持ちがあったりするじゃないですか。個人的にはそれよりも、怪魚ハンターたちも狙わないような、50年も前から世の中に写真1枚しか存在しないサカナとか、そういうのを探す方が面白いなと。単なる怪魚釣りじゃなくて、〝探す〟という領域に興味を持ち始めたんです。

そういうサカナって大体絶滅しかけていたりとか、いないに等しいような存在なんですけど、本当にたまに出てきたりするんですよね。いるのかどうか分からないと思っていたものが、現地に行ってみたら普通に市場にいたなんてこともあって、情報が出てこないだけで、普通に食べられてたりもするんですよ(笑)。国内だと「いない」と思われていたカニや貝がしれっと出てくることがあります。

そういう場所って、生きものの環境としてすごく豊かで、いろんな生きものがいるんです。例えば僕は有明海でずっとサカナを探していましたけど、数十年前の話を聞くと、「そんなにいろんな生きものがいたんだ」と思います。結局、「そういう場所もなくなっちゃったけどね」みたいな話にはなるんですが。ですか〝珍しいサカナを探す〟という視点から、少しずつ生きものがいる環境面に目が行くようになって興味を持つようになりました。当初、探すのが楽しいだけだったんですが、「これって放っておいたらどんどんいなくなっていくんだ」と気付き、せっかくならそれを守っていくところまでやらないと……と思うようになりました。希少種を探し歩くみたいな趣味って、ちょっと罪悪感もありますからね(苦笑)。なので探すだけではなく、守るところまでセットでやっていきたいな、と思ったのが、保全活動に入り込んでいったきっかけです。

━━━怪魚探しでは、どういった場所に行かれましたか。

小宮:もちろん有明海でもやっていて、例えばヒメモクズガニだったりフタツトゲテッポウエビだったりとか、もう十数年は見つかっていなかった種なんかを探していました。まだギリギリ見つけられる動物も多かったですね。海外だと、例えばメコン川(東南アジア)にジャイアントサーモンカープというでっかいサケみたいなコイがいるんですよ。

ケニアにある巨大な塩湖、トゥルカナ湖に探し行き見つけた巨大古代魚ポリプテルス・ビキール・ビキール

そのジャイアントサーモンカープが現地のダム建設と共に2003年あたりから記録がなくなっていて。メコン川を大きく回遊して、冬に滝に集まって産卵するという特殊な生態を持っているんですけど、その滝との連絡路が絶たれてしまい、絶滅してしまったんじゃないか、というのが20年ぐらい前の話だったんです。「本当にそんなサカナいるのかな」という疑いの気持ちと、「メコン川って広いから、どこかに残ってるんじゃないか」みたいな期待する気持ちがありました。メコン川のあるタイなんかは結構研究が進んでいるんですけど、ラオスまで行くとまだまだ開発が進んでいな土地も多いので、ラオス側だったらワンチャンいるんじゃないかなと思って、ベトナム側から国境を越えてラオスに入りました。

小宮さんがラオスで怪魚探しをした際の写真。

網や釣りでサカナを探っている様子。

市場とかで写真を見せながら探し回ったりする中で、産卵していたであろう滝や、ジャイアントサーモンカープを捕っていた村までたどり着きました。そこでは「10年前までいっぱいいたよ」「このサカナ、全然おいしくないんだ」みたいな面白い話を聞けましたね。で、このサカナの産卵は12月なのですが、その村の人も「12月にそのサカナが捕れていた」と言っていたので、じゃあもう1回冬に来て探そうと思ったんです。ただ残念ながら新型コロナウイルスの流行が始まってしまい、行けなくなりました。そして去年、ついに見つかったという話を聞いたのですが、やっぱり絶滅してなかったという安心感もありつつ、何かちょっと悔しいところもあります(笑)。

ラオスの市場では、このように地面にさまざまなサカナが並べられていたという。

━━━現地でサカナを探す時、言葉の壁もあったのではないかと思ったのですが。

小宮:僕はあまり英語が話せないので、拙い英語と勢いを組み合わせながらなんとかコミュニケーションをとりました。例えばジャイアントサーモンカープを探していた時に市場で写真を見せると「パサナボミ」とよく言われたんですね。それが何を意味してるかまったく分からなかったんですけど、途中で「パ」がタイ語で言う「プラー」[サカナの意味]で、「パサナ」がジャイアントサーモンカープのラオス語の呼び方だと分かりました。「ボミ」は何だろうと思ったら、「いない」という意味で。つまり、ずっと「パサナ(ジャイアントサーモンカープ)なんていないよ」と言われ続けていたわけです(笑)。この時は宿で英語を使って教えてもらい、なんとか分かりました。そんな感じで一つずつ必要な言葉を収集しながら探し回っていく感じでしたね。僕の言語習得力なんてひどいものですから、もうちょっと伝統漁法なんかについても聞けたんじゃないかなといった心残りは常にあるんですが。

━━━その行動力と地道なフィールドワークはすごいと思います。そういった活動をしていたのは、いつ頃のお話ですか。

小宮:ラオスとか、よく海外に行ってたのは2017~2019年の3年間です。その頃は頻繁に行ってました。高校卒業後はフリーターのような感じになっていたので、夏場は下筑後川漁協さんというエツの生産場で働いていたんです。その仕事が5~8月にあって、その期間が終わったら仕事がなくなるので、冬は例えば有明海の海苔の養殖場で人手が必要なので、そこでがっつり仕事を入れたり。そうすると春と秋に仕事が空くので、海外にサカナを探しに行ってました。そういうフリーター生活をしながら、2018年に社会人入試で大学生にもなっています。

━━━ちなみに小宮さんが捕った自慢の怪魚はありますか。

小宮:捕った中では、例えば自分の部屋に剥製として置いている、ポリプテルス・ビキール・ビキールというサカナでしょうか。ポリプテルスって、背中にヒレがいっぱいついてる竜みたいな古代魚なんです。ビキールというのはその最大種で。それがケニアとエチオピアにまたがるトゥルカナ湖にいると聞いて探しに行きました。当時、もう釣りに関心がなかったので、刺し網で採りましたね。「本当にこんなでかいポリプテルスがいるんだ!」と思いました。鱗もめちゃくちゃ硬くてナイフでは切れなかったので、ノコギリで腹を割って、現地で剥製の状態にして持ち帰ってきました。アフリカで捕った中では、他にもエチオピクスというハイギョの最大種を見つけることができたんです。あれは、もう「まんまオオサンショウウオじゃん!」みたいな感じで、すごく感動しましたよ。

━━━では、例えば日本の状況と海外の生物多様性がある場所の違いについて感じたことはありますか。

小宮:海外に行っても、わりと日本と同じだなと思いました。エチオピアでもどこでも、実はそれほど生物多様性の面が良かったわけではなくて、本当にいい環境があるのは物凄い奥地だけです。逆に人口の多い市街地に近いほど、日本以上に乱獲が進んでいて、大きなサカナがいないというのは世界共通でありましたね。本来2mを超えるような種類でも、捕れるのは10cmぐらいまでみたいな。それはやはり、地元の人たちが物凄く過剰に捕っているからです。そこはどこも同じだなと痛感しました……。メコン川では、市場によって「これ、タイガーバルブだよね。こんな巨大サイズ見たことないんだけど」みたいなサカナを見ることもありましたけど、まあ悪い状況を見ることの方が多かったです。

もう1つ興味深かったのは、巨大魚が生き残ってるような地域に住んでる人たちって、わりとサカナを雑に扱うんですよ。それは向こうに行って顕著に感じたところです。おいしいナマズとかだけ捕って帰って、残りのサカナはその場に捨てるみたいな。

そういったムダな捕獲をする場所がある一方で、エチオピアだと、小さいサカナも全部市場に並べて全部食べるみたいな感じで。それって生物多様性が物凄く豊かなところと、そうじゃないところの差なんだっていうのが、まず見えるわけじゃないですか。

これって日本でも同じようなことがあって、有明海で聞く話だと、昔タイラギなんかは貝柱しか取ってなかったそうなんです。タイラギは大きな三角形の貝なんですけど、中にホタテのような大きな貝柱が入っているんですね。昔はこれを潜水漁で潜って捕ってきて、貝を開いて、貝柱を取るんですけど、貝ひもの部分なんかが大量に出るから海に捨てていたということです。

それが今どうなってるかというと、有明海のタイラギは15年ほど不漁になって、まったく捕れないという状況です。今は貝柱どころか貝ひもですら、小さなパックで500、600円くらいですかね。有明産はまったくなくて、瀬戸内産や韓国産はあるっていう状況で。

たぶんエチオピアの状況は、有明海の数十年前の一番生きものがいた時代に近いんだろうなと思いました。昔は「そんなもん腐るほどいるし、食べ飽きたし、おいしい部分だけ捕って帰ればいい」みたいな感じだったのが、だんだん捕れなくなってきて、今はもう捕れるもの全部利用しないといけないという。

需要があるから捕り過ぎて、それが連鎖して、もう捕れなくなるところまで来ている……そういう海外の奥地で感じたことと、昔の有明海を知っている人から聞いた話がリンクしていくのは、すごく感じました。

たぶんエチオピアの奥地も、これから開発が進んで流通が改善していくと、おそらく「俺らの村の周りにいるサカナってお金になるんだ」と思って、大量に売り始めるんじゃないかと思います。

もし私がそこに住んでいて、持続的に利活用するための取り組みまでやるんだったら、彼らに言い含めることもできるかもしれないですけど、部外者の人間としては、そこまで踏み込める話題ではないなとも思います。それは彼らの資源でもあるので。

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サカナト編集部

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サカナに特化したメディア『サカナト』。本とWebで同時創刊。魚をはじめとした水生生物の多様な魅力を発信していきます。

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