真っ赤に染まったベニザケ、緑と朱色のコントラストが美しいオイカワ……これらは、魚に現れる婚姻色。私たちが普段想像する魚の色は、繁殖期に現れる特別な体色かもしれません。今回はこの婚姻色について紹介します。
繫殖期に現れる鮮やかな魚体<婚姻色>
婚姻色とは繁殖期のみに現れる、平常時とは異なる鮮やかな体色や模様のことです。一般的にはオスのみに現れますが、オス・メスともに婚姻色が現れる種もいます。
魚の体色は、体表に含まれる黒・赤・黄・白のそれぞれの「色素胞」が拡散・凝縮することで変化・強調しています。青色系統の色素は存在せず、代わりに細胞の中にグアニン結晶が並ぶ「虹色色素」の細胞があり、このグアニン結晶の層の感覚が変化することで青色を表します。
性ホルモンが活発になり、これらの色素胞が変化することで鮮やかな体色が現れたものを婚姻色といいます。
婚姻色が綺麗な魚5選!
さて、婚姻色が現れる仕組みがわかったところで、改めて婚姻色が綺麗な魚たちを紹介します!
婚姻色が現れる魚で有名なのはほとんどが淡水魚。海水の魚たちはサンゴ礁で擬態したり、同じ生息域にすんでいる種から自分たちの種を識別したりするためにカラフルで派手な色を有していることが多いのですが、淡水魚は石影などと擬態するために目立たない色をしている魚が多いです。
しかし彼らにも求愛のため繁殖の時期には熱帯魚にも劣らない、繊細で美しい体色が現れます。
婚姻色の代表<オイカワ>
「美しい婚姻色」と聞いて思いつくのは、この魚ではないでしょうか。コイ科ハス属のオイカワのオスは、薄い青緑色の体にピンク色のお腹、赤いヒレと独特の婚姻色を発色します。その美しい婚姻色から、アクアリウムで鑑賞用として飼育されることもあります。
婚姻色と同時に顔に白い凹凸が現れることがあり、これは追星(おいぼし)といわれています。
パステルでかわいい発色<カネヒラ>
タナゴの仲間も特に綺麗な婚姻色で有名です。タナゴの仲間のうち最も大型の種であるカネヒラは、ひし形に近い丸みのある体をしています。
カネヒラの婚姻色はオスのみに現れ、青緑色をベースにピンクが混ざったグラデーションがとても美しく発色。どこか可愛げもあります。とても魅力的な魚で、釣り人にも人気がある魚です。
炎のように真っ赤<ベニザケ>
婚姻色が名前の由来ともなっているのがベニザケ。繫殖期を迎える遡上前後には全身が真っ赤に染まります。ベニザケの特徴は、オスもメスも綺麗な婚姻色を発色することです。
この赤さのもとは、海のプランクトンがもつアスタキサンチンという赤い色素です。この色は繫殖期の証であるとともに、サケが広い海を回遊してきた証拠でもあるんですね。
黒とオレンジのコントラスト<ウグイ>
淡水魚であるウグイもオス・メスともに婚姻色を発色します。ウグイの婚姻色は、黒っぽい体色をベースに、オレンジ色の縦帯が2本。ヒレにもすこしオレンジ色が発色します。
日本にすむウグイの仲間には3種。どのウグイの婚姻色もベースは同じような色ですが、縞のパターンや色が少しずつ違うことで見分けられます。
赤い横縞が特徴的<カシワハナダイ>
海水魚にももちろん婚姻色を発色する魚がいます。ハナダイの仲間は普段、体全体が鮮やかな赤色をしていますが、繫殖期になると体が白っぽく発色し、背やヒレなどに赤い部分が鮮やかに残ります。模様は種によってそれぞれです。例えばカシワハナダイでは、体中央に赤く細い特徴的な横縞が現れます。
魅力的な婚姻色の世界
魚たちが持つ繁殖戦略のひとつ、婚姻色を紹介しました。婚姻色は魚たちにとって魅力的なものであることは明らかですが、私たち人間から見ても美しく魅力的です。
写真や動画でその魅力に惹かれた人は、ぜひ水族館に訪れるなどして、実物の繊細な体色を目撃してみてください!
(サカナト編集部)