春に旬を迎える魚は多くいますが、メバルもそのうちの1種。「春告魚」とも呼ばれるこの魚は食用としてだけではなく、ルアーフィッシングの対象魚としても有名です。
ところで皆さんはメバルの見分け方をご存じでしょうか? この時期、スーパーや魚屋では単に「メバル」という名前で売られていることが多いですが、一口にメバルといっても実は複数の種類がいるのです。
この記事では特に混同しやすいメバル3種についてご紹介します。
メバルと呼ばれる魚は3種類
よく釣りをする人であれば既にご存知かと思いますが、メバルと呼ばれる魚の中に体色が異なる3タイプが知られており、2008年、かつてメバルとされていた種がアカメバル、クロメバル、シロメバルの3種に分類されました。
いずれも色彩や形質、遺伝的差異から別種とされ、特に色彩は生鮮時における種同定で重要な識別点となります。その反面、メバルは岩礁や藻場などの複雑な地形に多く生息するため色彩に個体差があることにも注意しましょう。
メバルの見分け方
この3種のメバルは分布域が被っており、生息地などによる識別が困難なグループです。そこでメバルの識別には外見から種を識別する方法が用いられます。
メバルの見分け方で最も有名なのが胸びれの軟条と呼ばれる筋を数える方法。この方法は魚の鮮度にかかわらず有効であることや解剖、専門的な知識を要しないこと、写真からの識別も可能なことから釣り人をはじめとする多くの人が取り入れている識別方法です。
アカメバル
アカメバルは浅海の藻場やガラモ場(ホンダワラなどの藻場)に生息する種です。
名前の通りひれと体が赤色をしていることが特徴で、他の2種とは体色からも明らかに異なります。本種の胸びれの軟条数は15と3種の中でも最も少ない種です。
クロメバル
クロメバルは外洋に面した沿岸部の岩礁や藻場に生息する種。
胸びれの軟条数は16であることに加えて、体とひれが黒っぽいことから他のメバル2種と区別することができます。本種は体が黒っぽいことに加えて、背面がやや青みがかることも本種の特徴といえます。この特徴から釣り人からは通称「ブルーバック」とも呼ばれており、ルアーフィッシングの対象魚としても人気が高い魚です。
食用としての需要も高く、刺し網や釣りで漁獲されたものが流通します。
シロメバル
シロメバルは名前に「シロ」と付くものの白いのは腹部のみで背面やひれは褐色であることが多い魚です。
胸びれの軟条数は17と3種の中では一番多いですが、体色が似たクロメバルとは軟条数が1しか変わらないため両種は混同されやすい魚でもあります。また、死後は色合いが黒っぽくなってしまうことから、色による識別が難しい魚です。
特に関東圏では比較的よくみられるメバルで、漁港内でも釣獲されることがしばしばあります。
胸びれで見分ける方法は確実ではない?
ここまで胸びれと色彩によるメバルの識別方法をご紹介しましたが、実はこの方法は確実ではありません。
色彩に関しては前述したように個体差があること、魚の鮮度によって変化があるため原則、生鮮時の色彩のみが有効といえるでしょう。また、胸びれの軟条数にも個体差があり、アカメバルでは14~16、クロメバルでは15~17、シロメバルでは16~17とそれぞれの胸びれ軟条数が部分的に被っているのです。
2021年に公表された「AFLP 解析による種同定に基づく九州北部海域におけるメバル複合種群の計数形質」では、九州北部海域のメバルをAFLP解析により同定し3種の胸びれ軟条数を明らかにしました。
研究の結果、九州北部海域では胸びれ軟条数が15の個体の97%がアカメバルで、胸びれ軟条数が17の個体は100%がシロメバルだったそうです。しかし、胸びれ軟条数が16の個体は15%がアカメバル、41%がクロメバル、44%がシロメバルという結果になりました。
これにより、胸びれ軟条数が15、17の個体に関しては高確率で種同定が可能であることに対して、胸びれ軟条数が16の個体は軟条数のみでの識別は難しく色彩からの識別が有効であることが判明したのです。
メバルにも雑種がいる
海は広大ですが、近縁種の間では交雑が発生しています。
これは天然交雑と呼ばれるもので、飼育下と比較すると確率はかなり低いものの、実際に採集された個体や水中写真などからその存在が知られています。これら交雑個体は親魚2種の特徴を持つことが特徴で、「イシガキダイ×イシダイ」が分かりやすい例でしょう。
メバルにおいても交雑が起きることが知られており、「AFLP 解析による種同定に基づく九州北部海域におけるメバル複合種群の計数形質」で用いられた個体はAFLP解析による同定で、167個体のうちの20個体が雑種であることが判明したのです。
雑種のみに現れる特徴がないことに加え、胸びれ軟条数などで区別することが困難であり、現段階ではAFLP解析を用いた同定が有効とされています。
魚の分類は変わっていく
魚の分類は研究が進んでいくにつれて変わっていくものです。エゾイソアイナメのようにチゴダラと同種になったものもいれば、メバルのように細分化されるグループも少なくありません。
では、そのような情報をどこで得ればよいでしょうか?
まずは日本魚類学会のHPを見ることです。HP中の「日本産魚類の追加種リスト」では新種記載された魚や日本初記録種として和名が提唱された魚などが一覧で見ることができます。さらに「シノニム・学名の変更」ではシノニム(同種であるが学名が異なる種のこと、異名同種とも)とされた魚や学名に変更があった魚を確認することが可能です。
また、今回のメバルのように既知種に対する新たな知見は各研究機関が公開している論文を閲覧することで知ることができます。
論文の閲覧には認証が必要なこともありますが、フリーアクセスの論文も少なくありません。例えば鹿大博物館(鹿児島大学)の査読付きオンラインジャーナル「Ichthy, Natural History of Fishes of Japan」では日本産魚類に関する様々な論文を閲覧することが可能です。
かつてメバルと呼ばれていた種は現在、アカメバル、クロメバル、シロメバルの3種に分類され、それぞれが胸びれ軟条数による同定方法は非常に有名です。しかし、胸びれ軟条数だけで3種のメバルを識別することは非常に難しいため、体色や胸びれ軟条数などの特徴を総合的に見て判断するのがよいでしょう。
(サカナト編集部)