夏が始まる。暑くなってくると、怪談話で涼みたくなる人も多いのではないだろうか。この世ならざるものとの交流はいつの世も恐ろしくも人間の興味をつかんで離さない。
今回は瀬戸内海の備讃灘に出没するといわれる妖怪「ぬらりひょん」について、その正体を探ってみたい。
備讃灘の妖怪「ぬらりひょん」とは
ぬらりひょんと聞けば、妖怪の親玉といわれる大きな頭の老人のような妖怪を想像される方も多かろう。詳しい説明は省くが、この老人の姿のぬらりひょんは民間に伝わっているものではないという。
一方、備讃灘のぬらりひょんは伝承として文献にて紹介されている。平川林木『山陽路の妖怪』(季刊自然と文化1984年秋号)によると、備讃灘のぬらりひょんは、人の頭大の丸い玉のようなもので、海に浮かんでいるのを、船を寄せて取ろうとすると、ヌラリと沈み、またヒョンと浮いてきて、ひとをからかうという。
備讃灘のぬらりひょんの正体とは
浮き沈みする丸い物体、ぬらりひょんの正体はいったい何なのだろうか。
筆者はこのぬらりひょんのエピソードをはじめて目にしたとき、ピンとくる心当たりがあった。それはクラゲである。
以前、海でタコクラゲという丸いクラゲを捕まえようとしたとき、捕まえようと近づくとあっという間に海の底へ沈んでいき、あきらめて帰ろうとするとまた浮かび上がってくる、ということがあった。
ぬらりひょんの正体はクラゲの他にもタコなどの説があるが、タコが海面に浮いていることは非常にまれである。このことからも、筆者としては備讃灘のぬらりひょんはクラゲであるという説を推したい。
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