アクアリウムさがみはらが開発した人工産卵床
タナゴ類はその美しい見た目から飼育が盛んですが、二枚貝に産卵する、という点から繁殖は容易ではありません。
タナゴを二枚貝で産卵させるとなると、二枚貝も飼育することになります。ですが、先述の通り、「二枚貝は宿主に寄生して繁殖するので宿主も飼育しなければならない」「そもそも飼育が難しく長期飼育が困難である」「自然界の淡水二枚貝は絶滅危惧種に指定されるほど減少しているので自然界から採集し使い捨てのように使うのは好ましくない」といった理由から、二枚貝を利用してタナゴ類を繁殖させることは理想的とは言えません。
一般的にはシャーレを使い、タナゴの腹を押して人為的に産卵・放精を行うことで繁殖をさせているようですが、これにも人為的な親魚の選択や魚体に負担がかかるといった問題点があります。
そこでアクアリウムさがみはらでは、プラスチック容器にシリコンチューブをつけ、二枚貝を模したものを使ってミヤコタナゴの自然産卵を誘引することに挑戦しました。
シリコンチューブで入水管・出水管を模して水の流れをつくり、貝の匂いや物質が産卵行動を誘起することから中に貝を入れるなどの工夫も取り入れました。
これにより、ミヤコタナゴは縄張り行動を示し、数日後には産卵を確認することができたそうです。
タナゴの減少の理由は二枚貝の減少?
タナゴ類は婚姻色が美しく、鑑賞や釣りなど幅広く楽しまれる魚です。しかし紹介してきた通り、タナゴ類の産卵行動は二枚貝がないと再現できず、さらにその二枚貝の飼育や調達も難しいことから、産卵行動の観察や再現が難しい魚です。
タナゴ類は現在減少を続けていますが、その理由のひとつに淡水生二枚貝の著しい減少が挙げられるでしょう。もちろん、その他にも肉食性の外来魚や外来タナゴ類により国産タナゴ類が捕食されたり、生息地が狭まったり、水質悪化や都市化などの原因も関与してきます。
これを知ると、環境の複雑さや生物同士の関係について理解できるのではないでしょうか。
環境を守るには、短期・長期的な傾向を知り、それぞれどの要因がどのように関係しあっているかを学んだうえで実践していくことが大切だと言えます。
(サカナト編集部)
参考文献
細谷和海・内山りゅう・藤田朝彦・武内啓明・川瀬成吾、日本の淡水魚(2019)、山と渓谷社
斎藤憲治・内山りゅう、くらべてわかる 淡水魚(2015)、山と渓谷社
橋口康之(2018)、二枚貝に産卵する魚: タナゴ類の多様性と進化、日本の科学者 Vol.53 No.6
ミヤコタナゴの人工産卵床-相模原ふれあい科学館 アクアリウムさがみはら
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