北海道や青森県で厳冬の時期に始まる「フノリ漁」。手詰みによりフノリを採取します。
北日本で食用として重宝されるフノリは、味噌汁や酢の物など様々な料理で食べられています。
ですが、実は食用だけではなく、様々な利用方法があるのです。
食用としてのフノリ
フノリはフノリ科フノリ属に分類される紅藻の総称です。
このグループは日本各地に分布し、青森県や北海道では冬場になるとフクロフノリを対象としたフノリ漁が始まります。
フノリ類は潮間帯の上部に群生を形成することから、漁が行なわれるのは波の穏やかな干潮時のみ。機械は使わずに手摘み、もしくは「ゼンマイ」と呼ばれる特殊な漁具を使用して採取されます。
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採取されたフノリは、付着したゴミや雑海藻を取り除き食用として流通。冬季は生フノリが出荷されますが、春頃は天日で乾燥させた「乾燥フノリ」の出荷が始まります。
産地では味噌汁や酢の物にして食べられるほか、天ぷらで食べる地域もあるようです。
日本はフノリ大国?
主に日本で知られている種はフクロフノリ、マフノリ、ハナフノリの3種です。
かつて、日本のフノリ属この3種のみとされていましたが、2019年に公表された論文「Molecular studies of Gloiopeltis (Endocladiaceae, Gigartinales), with recognition of G. compressus comb. nov. from Japan」で、少なくとも国内に10種以上いることがわかっています。
また、この研究では日本列島に広く分布するフクロフノリに、4または5種が含まれていることが判明。加えて、真のフクロフノリは国内において北海道と東北にのみ生息することが明らかになりました。
これにより日本はフノリ属のほとんどの種が生息する、フノリの多様性が高い地域ということも分かったのです。
フノリの増殖
食用として利用されるフクロフノリですが、北海道では胞子を撒くことでフクロフノリの増殖を行っています。
漁場となる岩場では、毎年6〜7月頃に胞子撒きのほか、雑海藻の駆除も実施。フクロフノリと生育場を競合するイソダンツウやフクロフノリに特異的に着生するフノリノウシゲなどがフクロフノリに影響を与えることが知られています。
青森県はフノリ養殖発祥の地
青森県下北半島の北部に位置する風間浦村でも、フノリ増殖が行われています。
明治時代、下北郡風間浦村下風呂の網元である佐賀平之丞が漁港工事の捨て石におびただしいフノリが付着しているのを発見。そこから投石を行い、フノリ増殖を行ったそうです。
現在、風間浦村は「ふのり養殖発祥の地」と言われているほか、村には「布海苔投石事業発祥の地記念碑」が建てられています。
多種多様なフノリの利用法
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北海道や青森県で重宝されるとフノリですが、他の地域でもフノリを利用する文化があります。
例えば、新潟県ではそばに利用されており、新潟県魚沼地方の名物である「へぎそば」はフノリをつなぎにした郷土料理です。
また、漢字では「布海苔」のほか「布糊」とも書くことからも分かるように、食用としてだけではなく、古くから天然の糊料として用いられてきました。
特にマフノリはフノリ類の中でも上質な糊料として知られ、九州の五島、甑島は有名な産地だったそうです。
現在でもフノリは糊料として利用され、鹿児島県の伝統的工芸品である奄美大島では、大島紬の糊料としてフノリが用いられています。
フノリはこのほかにも先髪や漆喰、截金(きりかね)などに使われた歴史があり、その利用方法は多種多様です。
フノリは健康食品?
様々な用途に用いられるフノリですが、近年の健康志向の高まりから健康食品としても注目されているようです。
フノリはタウリンやフノランなどの多糖類を多く含むことが知られており、これらは潮間帯に生息するフノリが乾燥、紫外線、雨水、温度や浸透圧の変化から守るために体内に蓄積しているものと考えられています。
マウスを用いた実験ではフノリが持つ粘度の高い多糖類は糊料としてだけではなく、生活習慣病の進展を抑制することが解明。タウリンには疲労回復があることが知られています。
広がるフノリの利用
古くから日本で利用されてきたフノリですが、近年の研究によりその利用方法は広がっています。
伝統的な糊料や郷土料理の原料としてだけではなく、さらに新しい形でフノリの利用方法が継承されていくかもしれませんね。
(サカナト編集部)