トビウオは飛ぶ魚として有名である一方、日本における水産上、重要な魚としても知られています。
特に屋久島はトビウオの漁獲量が多いことが知られており、トビウオに関する歴史や郷土料理が数多く残っているのです。
飛ぶからトビウオ?
トビウオはダツ目トビウオ科に属する魚の総称であり、2024年1月現在、日本では28種ものトビウオ科が知られています。かつて、サヨリトビウオとクロハラサヨリトビウオがトビウオ科に属していましたが、現在は2種ともサヨリ科に属する魚です。
トビウオの特徴は何といっても水面を滑空する生態。一時的に水中から飛び出す魚や、水面を短距離移動する魚は多くいますが、トビウオのように長距離を滑空する魚は多くありません。トビウオが飛ぶ理由はシイラやマグロなどの大型魚から逃げるためであり、尾びれで水面を叩きながら100~200メートルも滑空します。中には400メートルもの長距離を滑空した記録もあるそうです。
トビウオは水面を滑空をするために各ひれが特徴的な形をしており、特にグライダーの羽に似た胸びれはトビウオ科を象徴する形態の一つといえるでしょう。この胸びれは種ごとに大きさや色彩が異なるため、トビウオを識別する上でも非常に重要な役割を果たしています。
また、外部から見えない特徴ですが、胃が無いことや消化器が直線的であること骨の密度が低いも本種の特徴です。これは体を軽くしてより飛びやすくするためと考えられています。
屋久島ではトッピーと呼ばれる
そんなトビウオですが、南日本を中心に分布しており鹿児島や長崎で多く漁獲されています。
鹿児島県における漁獲量は全国の約2割を占めており、特に屋久島で漁獲が多い魚です。屋久島はトビウオ漁の好漁場として知られ、鹿児島県内で漁獲されるトビウオの約7割を供給しています。
トビウオは黒潮と共に日本に来遊しますが、屋久島は黒潮の通り道であるためトビウオが豊富に漁獲されるそうです。屋久島では「トッピー」の名で親しまれており、春のプライドフィッシュ、「かごしま旬の魚(春)」に選ばれています。
トビウオの主な漁法は刺網や定置網、昭和30年頃考案された「ロープ曳き漁」。現在、トビウオ漁は「ロープ曳き漁」がメインに行われているものの、昭和40年頃までは「浮敷網(うきしきあみ)」を使った漁がメインだったそうです。また、一部の地域では「トビウオ掬い」と呼ばれる漁業も存在し、観光漁業としても知られています。
屋久島では約10種ものトビウオが漁獲され、季節によって多種多様なトビウオが漁獲されます。ツクシトビウオ、ホソトビウオ、ホソアオトビ、ハマトビウオは主要なトビウオであり、中でも体長50センチにもなる大トビ(ハマトビウオ)の漁獲量が多いとのことです。
大型のトビウオは刺身や干物で食べられており、鹿児島県を代表する水産物の一つに数えられます。また、内臓とうろこを取り除いたトビウオを胸びれを広げた状態で唐揚げにした料理は屋久島の郷土料理です。
他にも鹿児島県では体長30センチ前後の中トビ(オオメナツトビ、トビウオ、ツクシトビウオ)や胸びれに特徴的な柄を持つセミトビ(アヤトビウオ)、胸びれが赤いアカトビなどが漁獲され、小さなものは鹿児島県の郷土料理である「つけあげ」の原料にされます。
各地のトビウオ料理!
トビウオが有名な地域は屋久島だけではありません。長崎県や鳥取県、八丈島もトビウオの産地と知られ、いずれもトビウオを使った郷土料理が伝承されています。
長崎県や鳥取県などではトビウオを「あご」と呼び、「あご」を使った「あごだし」は全国的にも有名です。「あご」の由来は「あごが落ちるほど美味しいから」、「トビウオが硬くて食べるのに顎を使うから」とも言われていますが正確な由来は不明だそうです。さらに、鳥取県には「あごちくわ」と呼ばれるトビウオを使用した練り製品もあり、そのままはもちろんのことうどんの具材としても人気があります。
八丈島では2~5月に伊豆諸島へ来遊するハマトビウオを「春とび」と呼び、「トビウオ流し刺し網漁業」で漁獲されるハマトビウオは春を告げる魚です。「春とび」は新鮮なうちに「なめろう」や刺身で食べられる他、郷土料理の「くさや」や「島寿司」の原料でもあります。また、八丈島の「春とび」は東京都のプライドフィッシュの一つです。
このようにトビウオは南日本を中心に漁獲されており、各地で様々な郷土料理を発展させてきました。トビウオを丸ごと使った「屋久島の唐揚げ」の他にも、「島寿司」や「くさや」の原料にされているのは驚きですね。
(サカナト編集部)