日本で親しまれている魚の1つ「アユ」は両側回遊(一生の中で海水・淡水の両方の環境を移動する回遊行動)をする年魚です。
アユは海と川を行き来する“海産アユ”と、湖で一生を過ごす“湖産アユ”の2系統が知られています。遊漁(釣り)の種苗としては湖産系アユが好まれており、100年以上にわたり持続的な放流が行われてきました。
近年の研究では、湖産アユと海産アユが交雑することで遺伝子攪乱が生じていることが判明しており、現在の放流事業の見直し、また、アユ遺伝子資源のバックアップ体制を整えることが重要な課題として浮上しています。
そのような中、東京海洋大学の市田健介助教らは、凍結した天然アユの生殖腺から単離した生殖幹細胞を不妊化したアユの仔魚を宿主として移植したところ、宿主が凍結細胞由来の精子、卵を生産。両者を受精させることにより、凍結細胞由来の次世代個体を作り出すことに成功しました。
この研究成果は『Aquaculture』に掲載されています(論文タイトル:“ Production of ayu (Plecoglossus altivelis) offspring using cryopreserved spermatogonia from surrogate broodstock”)。
日本で親しまれているアユ
アユ Plecoglossus altivelis は両側回遊を行う年魚として知られており、日本においては「友釣り」をはじめとして遊漁の対象として人気の高い魚です。

本種は海と川を行き来する「海産アユ」と一生を湖で過ごす「湖産アユ」の2系統が知られ、特に湖産アユは友釣りにおいて“おとりアユ”に対する攻撃性が高いことから、種苗として好まれてきました。
こうした背景から、過去100年以上にわたり各地の河川への放流が行われています。
放流アユで遺伝子攪乱は生じる?
湖産アユと各地の海産アユが交雑することにより生じる、地域集団における遺伝子攪乱の可能性は様々な検証が実施され、各地のアユ集団の遺伝子攪乱はほとんどないと考えれられてきました。
しかし、近年の研究では湖産アユと海産アユが交雑することで遺伝子攪乱が起きていることが明らかになったのです。そのため、現在ではアユの放流事業計画の見直しと天然アユの遺伝子資源バックアック体制を整えることが重要な課題として挙げられています。
そうした中、東京海洋大学の市田健介助教らはアユの生殖細胞の凍結保存技術と生殖細胞移植技術を樹立。これらを組み合わせることにより、アユ遺伝子資源の半永久的な保存と凍結細胞から個体を復元させる技術の構築を目指し研究が行われました。
凍結保存と個体復元
まず研究では、様々な成熟段階のアユで生殖幹細胞が大量に含まれる時期の特定が行われました。
それらの生殖腺を複数の凍結保護剤を用いて凍結保存が行った結果では、凍結した細胞のうち75%以上が生残する凍結保存技術の最適化に成功しています。

次に凍結した細胞からの個体復元を目指し、生殖細胞の移植技術の開発に着手。5カ月間凍結保存した生殖腺を解凍し、酸素分散で生殖細胞を分離した後、不妊化した孵化仔魚に移植が行われました。
その結果、移植前に蛍光標識した生殖細胞が宿主生殖腺内へと取り込まれている様子が観察されています。また、移植を施した宿主アユの1年飼育した結果ではオスで7匹、メスで4匹から配偶子が得られたのです。
得られた配偶子を人工授精
さらにこれらの配偶子を人工授精させたところ、正常な形態の仔魚が得られています。
これにより、研究チームは不妊である3倍体(染色体を3セット持つ個体)アユから機能的な配偶子を得ることに成功しました。
また、マイクロサテライトマーカーを用いたDNA解析では、得られたすべての次世代個体が凍結細胞由来であることも判明。世界で初めて凍結細胞からアユを復元することに成功しました。
1
2