“生物の進化”というと長い年月を要するもの。我々、人間の寿命では生き物の進化を見ることは難しいと思うかもしれません。
しかし、生物によっては数年から数十年という短い期間で進化を観察できます。
それがワシントン湖に生息する魚<イトヨ>です。
鱗板を持つイトヨ
イトヨ Gasterosteus aculeatus はトゲウオ科の小型魚です。
トゲウオ科の主な特徴として、体側に「鱗板(りんばん)」と呼ばれる、骨化した大きな外組織の有無が挙げられます。この形質はトゲウオ科の魚を識別する上で重要な特徴です。
イトヨの仲間(提供:PhotoAC)また、複数の種で、鱗板が体側全体を覆う完全型と、体側の一部に鱗板がある不完全型が知られています。
ワシントン湖におけるイトヨ
北米シアトルにあるワシントン湖に生息するイトヨにおいては、1957年~2005年にかけて鱗板が体側を覆う完全型の出現頻度が上昇していることが知られていました。
この完全型の増加は、下水処理によりワシントン湖の水の透明度が上がったことが原因とされています。湖の透明度が上がったのは“良いこと”と考えるのが普通ですが、イトヨの場合は良いことばかりではありませんでした。
なぜかというと、湖の透明度上昇という人為的な環境変化により、視覚的に索餌をするマスによる捕食圧が増加してしまったからです。
現在も進化中のイトヨ
今回、国立遺伝学研究所の山崎曜氏らによる研究グループは、過去のワシントン湖におけるイトヨのデータを用いることで、鱗板を決定する遺伝子座に作用する選択圧の推定などを行いました。
その結果、完全型の生存率は非完全型と比較して数パーセント高いことが判明。2005年以降も完全型の出現頻度は上昇しているといいます。つまり、進化が継続していることが明らかになったのです。
加えて、2022年に観察された完全型の頻度は予測値を上回っており、選択圧が強まっていることが示唆されました。
この原因については明らかになっていないものの、夜間照明による捕食圧の上昇と考えられています。
急速進化から目が離せない
今回の研究により、ワシントン湖のイトヨが現在も進化中であること、近年でイトヨに対する捕食圧が上昇していることが明らかになりました。また、その選択圧を定量化することに成功しています。
現在進行形で進化を続けるワシントン湖のイトヨ。この急速な進化を観察することで、生物の進化について、新たな知見が得られるかもしれませんね。
この研究成果は「Evolution」に掲載されています(論文タイトル:Inferring the strength of directional selection on armor plates in Lake Washington stickleback while accounting for migration and drift. )。
(サカナト編集部)