2025年12月、すごい発見に関するニュースが飛び込んできました。
アマガエルやアカハライモリ、カナヘビの腸内細菌が、がん細胞の増殖抑制効果を持つことが判明したのです。そして、そのうちニホンアマガエルの腸内細菌が最も高い抗腫瘍効果を持つことが分かりました。
元バイオ研究者の筆者が、画期的ながん治療として注目を集めるこの研究結果を分かりやすく解説します。
がん細胞増殖を抑制する腸内細菌を発見
北陸先端科学技術大学院大学物質化学フロンティア研究領域の都英次郎教授の研究チームによると、アマガエルやアカハライモリ、カナヘビなどの腸に生息するいくつかの腸内細菌ががん細胞の増殖を抑制したそうです。
試験にはマウスの結腸がん由来の細胞であるColon-26(コロン-26)を同じ系統のマウスへ移植して、がんを発生させる腫瘍モデルを使いました。
Colon-26腫瘍モデルでの抗腫瘍効果(提供:PhotoAC、筆者加筆)この腫瘍モデルではマウスは28日間程度しか生存できませんが、上記の動物から得られたある1つの菌を尾静脈から1回投与しただけで腫瘍が完全消失し、40日後も100%生存したそうです。
検査でがんの兆候がすべてなくなった状態のことを完全奏効(CR:complete response)と言いますが、1回で100%の完全奏効効果が得られるのは、医学的に非常に有益な結果といえます。
完全奏効を示したのは二ホンアマガエルの腸内細菌
1回の投与で完全奏効を示したのは二ホンアマガエルの腸内細菌であり、1983年にアメリカでヒトから見つかったEwingella americana(以後、E.americana)であることが判明。
E.americanaは腸内細菌目エルシニア科に属するグラム陰性桿菌(かんきん)で、酸素がなくても生育できる菌です。
グラム陰性桿菌のイメージ(提供:PhotoAC)グラム陰性桿菌には非常に多くの種類があり、セラチアやエンテロバクター、緑膿菌などの病原菌も含まれます。
E.americanaは、免疫力が大きく低下したヒトの血液中などで見つかる菌ですが、病気の原因菌なのか日和見菌なのかは分かっていません。なお、シイタケ腐敗病を引き起こす菌としても知られています。
E.americanaによる抗腫瘍効果のメカニズム
E.americanaによる抗腫瘍効果のメカニズムは2つあります。
一方は自身のもつ細菌分泌細胞溶解素で腫瘍を直接破壊するもので、他方は免疫細胞を誘導してがん細胞を間接的に攻撃するものです。
E.americanaによるColon-26腫瘍への抗腫瘍効果のイメージ(作成:額田善之)細菌分泌細胞溶解素で腫瘍を直接破壊
酸素がない環境で生息するE.americanaは血中投与で全身に広がりますが、臓器や組織、血液中などの酸素が豊富で腫瘍がない場所には定着しません。
腫瘍内には酸素が少ないためE.americanaが定着して増殖し、自身のもつ細菌分泌細胞溶解素で腫瘍を直接破壊するのです。
免疫細胞を誘導してがん細胞を間接的に攻撃
腸管以外の体内に存在する細菌類は生物にとっては非常に危険であるため、腫瘍内外のE.americanaは免疫システムで排除されます。E.americanaに対して免疫細胞が放出する炎症性サイトカインが免疫応答を引き起こすことで、一緒に存在するがん細胞も死滅させるのです。
炎症性サイトカインとは、免疫細胞が分泌するインターロイキン-1やTNF-αなどの炎症反応を促進する働きを持つ物質のことで、免疫を増強します。
つまり、E.americanaを血中投与するという治療は、2種類の抗腫瘍効果の相乗効果をもたらし、最後は生体内の免疫システムでE.americanaも排除できるという、実に理にかなった方法といえますね。
E.americanaを用いた治療法の安全性は?
E.americana自体が病気の原因になるかどうかは不明ですが、通常の免疫力があれば、腸管以外では生育できません。
しかし、移植手術や化学療法などによるがん治療で免疫が落ちている状態の場合、日和見感染により腸管以外で増殖することがあります。
ただ、この研究においてマウスで高い安全性が確認されたこと、ヒトでは一般的な抗生物質で除菌できることなどから、恐らくヒトでも高い安全性が得られると考えられます。
E.americanaを用いたがん治療で期待されること
E.americanaはその特性上、固形がんに対して高い抗腫瘍効果が期待できます。既存療法との併用によって、治療期間の短縮やがん転移前に完全奏効できれば生存率向上も期待できる可能性があるでしょう。
特に、乳がんなどで乳房切除が不要になれば、患者さんのQOL(Quality of Life)は向上するかもしれません。
ピンクリボンを持つ医師(提供:PhotoAC)これまであまり分かっていなかった腸内細菌のE.americanaが、まさか二ホンアマガエルの腸内にも生息し、画期的ながん治療に役立つことが示唆されるとは、びっくりですね。
両生類ではあまりがんが発生しないことにも関係があるのかもしれません。
早く、ヒトでの安全性の担保や治療効果が確認されることを願います。今後の研究の行方が楽しみです。
(サカナトライター:額田善之)