海水魚の多くは浮遊性の卵を産み、孵化した仔稚魚は海流に乗って分散します。
仔稚魚の分散は個体群同士のつながりや資源量の変動に大きく影響することが知られるほか、生存においては仔稚魚が適した環境に辿り着くことが重要です。
大陸棚(大陸の周囲に広がる浅い海域)は多くの魚の生息場となっており、仔稚魚が大陸棚に留まれるかどうかは、資源の加入の成否を決定づけると考えられています。
そうした中、京都大学白眉センターの坂本達也特定助教らの研究グループは、大陸棚における仔魚の移動経路を個体ごとに復元する手法を開発し、この手法を東シナ海のマアジに適用しました。
この研究の成果は「Fisheries Oceanography」に掲載されています(論文タイトル:The staircase chart: visualising vertical and cross-shelf movements and dispersal of early-life fish, applied to Japanese jack mackerel)。
東シナ海のマアジ
東シナ海のマアジは、黒潮の影響により多くの仔魚が下流域へ輸送されると考えられています。
しかし、東シナ海で再生産を維持するためには、仔稚魚がそこに留まる仕組みが必要不可欠です。マアジが成長に伴い深場へ移動していると考えられていたのの、分散過程の全体像は明らかになっていません。
マアジ(提供:PhotoAC)近年は、経験した水温を指標する耳石を用いた酸素安定同位体比の分析が高度化。これにより、実際の分散過程を復元できる可能性があるといいます。
一方、推定は水平か鉛直のどちらかに限られており、三次元的な移動を推定する仕組みの開発が求められていました。
新たな手法を用いた解析
研究グループは、耳石の酸素安定同位体の高解像度分析と海洋環境モデルを統合することで、魚の移動を復元する新しい手法「階段チャート解析」を開発しました。
この手法を東シナ海のマアジ稚魚12個体に適用した結果、すべての個体が東シナ海南部の大陸棚外縁部にある産卵場付近の表層に由来することが判明しています。
その後の移動経路では明らかな分岐が見られ、南部に留まった個体は早い段階で深場へ移動した一方、北部で採集された個体は大陸棚外縁の流れの強い場所に留まり、北方へと輸送されていたのです。
また、南部で採集された個体は初期成長速度が速い傾向が見られたことから、遊泳能力の上昇に応じて個体が水平方向の位置を選択し、分散範囲を調整している可能性が示唆されました。
資源変動の仕組み解明に貢献
今回の研究では、新たな手法を用いることにより、マアジの初期分散は海流だけでなく、個体が自ら行動して移動範囲を調整している可能性が示されました。
この手法は、魚における初期分散過程の理解を深め、資源変動の仕組みの解明に貢献することが期待されています。
(サカナト編集部)