海藻がいなくなり、海が砂漠のようになった状体を「磯焼け」と言います。磯焼けが起こると海洋環境にどのような影響があるのでしょうか?
今回の記事では、磯焼けについて解説していきます。
藻場の種類とそのはたらき
海藻や海草(アマモ)が群生する場所を「藻場」と言い、生えている海藻の種類によりそれぞれ名前がつけられています。
アマモ場
アマモ場は波が穏やかな砂地の沿岸に見られます。海藻と混同されやすいですが、維管束や根を持つ高等植物であり、海藻とは全く種類が異なります。
ガラモ場
煮物などに利用されるヒジキはホンダワラ科に分類されます。ホンダワラ科の海藻が集まった藻場はガラモ場と呼ばれます。
藻場の機能
海藻や海草の表面には付着性の海藻や、肉眼では見えない微細藻類が生えています。種類によっては特定の海藻にしか付着しないものもいます。
さらに、藻場は幼魚の隠れ家や生物の産卵場としても利用されています。
このように藻場があることで、様々な生物が共存し生物多様性が保たれています。
磯焼けとは藻場が著しく衰退・消失する現象と定義されています。磯焼けの原因にはどのようなものがあるのでしょうか?
磯焼けの原因
磯焼けの原因には地球温暖化による気象や水温の変化が挙げられます。
特に水温の変化は重要で、海藻の成長に悪影響を与えたり、海藻を食べる生物にも影響を与えます。水温が変化すると、生物の住む場所やエサを食べる量が変化します。
海洋生物研究所の報告によると、スズキ目アイゴ科に分類されるアイゴは海水温の上昇により海藻を食べる量が増えるといいます。また、ウニも海藻をよく食べるため、磯焼けの原因生物として知られています。
神奈川県では磯焼けの原因となるウニを養殖して食用利用するというユニークな取り組みを実施し、キャベツで育てた「キャベツウニ」が商標登録されています。
磯焼けの環境で生きる生物
磯焼けが起こると生物多様性が低下しますが、過酷な環境でたくましく生きる生物も存在します。
紅色植物門真正紅藻綱サンゴモ亜綱サンゴモ目に属するサンゴモは磯焼けした環境で優先し、「サンゴモ平原」を形成します。
石灰藻とも呼ばれる「サンゴモ」
サンゴモは体に炭酸カルシウムを沈着させるため石灰藻とも呼ばれます。
見た目で大まかに分けられており、サンゴのような枝分かれした見た目を持つ有節サンゴモと、不定形で他の海藻や石に付着する無節サンゴモがあります。
生物の体で新しい細胞が作られる部分を生長点といい、サンゴモは他の海藻に比べ体の内部にあるという特徴があります。このため、他の生き物に表面を食べられても耐えられるという特性を持ちます。
また、北海道大学の研究によると、サンゴモはプランクトン生活をするウニの幼生を変態させる物質を出すことが分かりました。海藻の捕食者であるウニを自分の周りに集めることで、ライバルとなる海藻の成長を阻害するのではないかと考えられています。
ウニやサンゴモなど限られた生き物しか生きていけないサンゴモと生命のゆりかごとなる藻場。どちらが豊かな海を支えるために必要でしょうか。
海藻から海の未来を考えていきませんか?
(サカナトライター:骨密堂)
参考文献
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中坊徹次(2018)、日本魚類館、株式会社小学館、434
長谷川一幸・磯野良介・島隆夫・渡邉幸彦・渡邉裕介・箕輪康(2018)、低水温期におけるアイゴ未成魚のアラメ摂餌と水温の関係、海生研研報、23、65-68
桑原久実(2001)、ウニ食害による磯焼けの現状と対応策、平成13年度 日本水産工学会 学術講演会、223-226
鈴木稔(2000)、”磯焼け”現象の化学的解明-磯焼けの持続に関わるアレロケミカルス、化学と生物、38