海藻サラダや刺身のツマに使われている赤い海藻の名前を知っていますか?
これらはトサカノリやオゴノリで「紅藻」というグループに分類されます。おにぎりやお寿司に使われるノリも紅藻に含まれており、私たちの食生活に密接に関わる海藻と言えます。
今回は紅藻の仲間がどのように利用されているか解説していきます。
海藻は<緑藻・紅藻・褐藻>の3つに分かれる
海藻は植物と同じように葉緑体を持ち、光合成を行います。葉緑体は赤い光を吸収するクロロフィルaという緑色の色素、さらに他の色の光を吸収する補助色素を持ちます。この補助色素の違いで、緑藻・紅藻・褐藻の3つに分けられます。
紅藻は赤い色素であるフィコエリスリンを持ち、体が赤みを帯びているという特徴を持ちます。このように海藻の名前を調べるとき、体の色は重要なポイントになっています。
紅藻と褐藻は混同しやすいですが、紅藻は藻体から出る粘液が赤っぽいことからも見分けられます。
寒天に利用される紅藻
身近な食品である「寒天」はテングサ目・オゴノリ目・イギス目といった海藻を煮て、煮汁を冷やすことで得られます。
糖が鎖状に繋がった化合物を多糖といい、寒天はアガロース(中性ガラクタン)とアガロペクチン(酸性ガラクタン)の2種類の多糖の混合物です。
加熱すると溶けて流体のゾルとなり、冷やすと固体のゲルになる性質を持っています。また、アガロースはゲルの強度、アガロペクチンは力を加えたときに元に戻る性質(弾性)と変形したまま戻らない性質(粘性)のバランスに影響を与えます。
寒天の利用
アガロース、アガロペクチンの量は海藻の種類によって異なります。
例えば、アガロースを多く含むテングサはゲルにした時に弾力が高いという特徴があります。このため良質な寒天の素材であり、食品に利用されています。
また、ところてんもテングサから作られ、製法は似ていますが、ミネラル豊富で磯の香りがするなど異なる魅力を持っています。
さらには、寒天は学術研究にも利用されています。細菌を育てる寒天培地として利用され、医学の発展の立役者となっています。
ノリの利用とその養殖方法
皆さんが普段何気なく食べているノリも紅藻の仲間で、アマノリ属のスサビノリが主に利用されています。
ノリがどのように利用されてきたか、その歴史や生態・養殖方法・ノリ養殖の抱える問題について紹介します。
ノリの水産利用の歴史
日本人がノリを水産利用していた歴史は長く、奈良時代には税制度の「租庸調」のうち「調」として都に紫菜(むらさきのり)を収めるように定められていました。しかし、現在のように四角くノリを成形するようになった歴史は浅く、江戸時代頃に始まりました。
当時、浅草では古紙を使った再生紙である漉返紙(すきがえしがみ)が作られ、紙すきの技術が確立されました。浅草の職人たちの技術に目をつけた商人が生ノリを運び込み、紙のようにノリをすいて成形するようになったと考えられています。
ノリの生態
ノリに限らず藻類は不思議な生態を持ち、細胞内に染色体のセットを1組持つ単相、2つ持つ複相が明瞭に分かれています。ノリは単相で大型の状態を葉状体といい、普段食べているノリはこれに当たります。
複相の時、貝殻の中で糸状体と呼ばれる状態で過ごします。また、単相から複相になるときは受精により果胞子を形成し、複相から単相になるときは殻胞子嚢で染色体のセットを半分にする減数分裂をすることで殻胞子を形成します。
季節により海洋環境は激しく変化するため、栄養が多く自分に合った気候の時に育つための葉状体と、自分に合わない環境をやり過ごすため貝殻の中で過ごす糸状体をたくみに使い分けて生きているのです。
代表的な養殖方法
ノリの養殖方法は大きく分けて糸状体の培養、採苗、本育成、摘採という工程に分かれています。
最初の工程である糸状体の培養では漁場で良く育った葉状体を選びます。さらに、病気などにかかっていない部分を培養し、そこで自家受精を行い果胞子を取り、発芽した糸状体は陸上の施設でカキ殻に移植され、培養が行われます。
次に、採苗の工程ではカキ殻の糸状体が出す殻胞子をノリの養殖用の網につける作業が行なわれます。殻胞子がつけられた網は漁場により支柱張り養殖や浮き流し養殖など適切な方法によって本育成が行なわれます。本育にはふたつの手法があります。
ひとつ目の支柱張り養殖では海に支柱が立てられており、そこに吊り網と呼ばれる網に網を張ることで固定します。のりの養殖において干出(海に浸かっていない状体)をコントロールすることは品質に大きな影響を与えます。
このため支柱張り養殖では、毎日網をつける位置を潮汐に合わせて変えることで干出をコントロールしています。品質のいいノリが取れますが、支柱を海底に刺して立てるため養殖に適した場所が浅瀬に限られます。
ふたつ目の浮流し式では、養殖施設に浮き球を付け海面付近に浮かせアンカーロープを固定し、そこにノリ網を張って養殖します。深場でもノリを養殖出来ること、収穫も機械で簡単に行えることから広く利用されている方法です。
最後は、摘採と呼ばれる成長した葉状体を収穫する作業をします。機械で収穫することが多いですが、養殖場によっては手作業で行なうこともあります。
この際に次にノリを育てるタネとなる葉状体を選びます。また、野菜と異なり収穫してからも成長するので2~3回摘採をすることが出来ます。
ノリ養殖の問題
現在、ノリ養殖は地球温暖化と色落ちによって生産量に大きなダメージを受けています。それぞれどのようなことが原因になっているか紹介します。
まず、地球温暖化によって海水温が上昇しノリの成長が悪くなるという問題が起こっています。ノリが正常に育つには水温が下がることが必要で、採苗の時に健康なノリ芽を生産することが難しくなります。
次にノリの色落ちは、海水にとける栄養が不足することでノリが色素を白くなってしまう現象を指します。特に有明海の被害は深刻で様々なニュースに取り上げられています。
海藻が育つには硝酸塩やリン酸塩など栄養塩と呼ばれる物質が必要で、海洋生物の糞や死骸、または河川水や生活排水が供給源となっています。
日本では海を綺麗にするため1970年に水質汚濁防止法や1993年の環境基本法などで海に流す生活排水を規制していましたが、近年では海が綺麗になりすぎてしまい、ノリが育ちにくい環境になってしまっているとの指摘もあります。
このようにノリの不漁は地球温暖化などの環境問題と密接に関わっています。身近な食材から環境問題について考えていきませんか?
(サカナトライター:骨密堂)
参考文献
藤原昌高(2010)、からだにおいしい 魚の便利帳、高橋書店
竹内俊郎(2016)、水産ハンドブック、株式会社生物研究社
二羽恭介(2020)、ノリの科学、朝倉書店
伊藤龍星・菅沼倫美(2022)、ノリ養殖における温暖化による採苗日繰り下げ効果の検証、大分県農林水研セ研報
海の栄養が足りない!黒くならない“色落ち”で養殖ノリが今季も不作のピンチ 有明海の漁業者は「雨を願うばかり」-FNNプライムオンライン