水族館や魚屋で魚を見た時、その魚の“食性”を考えたことがありますか?
魚の食性は大きく草食性、肉食性、雑食性の3つに分かれ、草食性には海藻や葦、植物性プランクトンを食べる魚、肉食性には魚や甲殻類、昆虫を食べる種もいれば、鱗を食べる鱗食魚、さらに鰭を食べる魚まで知られています。
先日、公表された論文ではシクリッドの1種がこれらとは全く食性を持つことが判明しました。
大規模な種分化を遂げた淡水魚
シクリッドとはカワスズメ科(またはシクリッド科)に属する魚の総称で、アフリカや南米、中東などに分布。主に淡水域に生息しますが、汽水域に進出するものもいます。
このグループの魚は世界で1300種程が知られており、特に東アフリカのヴィクトリア湖、マラウイ湖、タンガニィカ湖では多様性が高く、なんと数百種にも及ぶシクリッドが生息しているといいます。
また、日本には外来種として数種が定着しており、沖縄県、鹿児島県、小笠原ではカワスズメと呼ばれる大型種が自然繁殖しているようです。
日本でシクリッドはまだ馴染みがないものの、大型種は食用としての需要が高く、カワスズメは養殖も行われています。また、小型のシクリッドは観賞魚として流通しており、オスの個体では色鮮やかな婚姻色を見ることができます。
コイ科に現れる追星
追星とは繁殖期のコイ科魚類に見られる白い色をした突起状の物です。
追星の出現は種や性別によりまちまちですがオスの個体で顕著に現れます。カワムツなどではメスにも現れるもののオスほど目立ちません。
追星の出現する場所は主に頭部や鰭ですが、ウグイのように広い範囲に追星が出現する魚もいます。追星の役割は繫殖期の雌を刺激する役割や、他のオスを威嚇する役割があると考えられているようです。
マラウイ湖のシクリッドが追星を食べていることが判明
先月、公表された論文「Preying on cyprinid snout warts (pearl organs) as a novel and peculiar habit in the Lake Malawi cichlid Docimodus evelynae」ではマラウイ湖に生息するシクリッドの1種Docimodus evelynaeが同所に生息するコイ科のLabeo cylindricusの追星を食べていることを明らかしました。
魚の鱗を食べる鱗食魚として知られていたDocimodus evelynaeの食性を調べたところ、胃の中は大半が白いボツボツとした物質だったそうです。分析の結果、この物質がLabeo cylindricusの追星であることを突き止めました。
追星には魚やエビなどと同等のカロリーが含まれていることに加え、Labeo cylindricusには常に追星が出現していることから、Docimodus evelynaeがLabeo cylindricusの追星を貴重な食糧として利用していると考えられています。
このように追星を食べる魚は他の魚では見られなかった食性であると同時に、魚の頭部にある追星をどのようにして摂食しているのかは謎だそうです。
大規模な種分化をしたシクリッドですが、Docimodus evelynaeのように独自の食性で厳しい生存競争を生き抜く魚もいるのでした。この先も変わった食性の発見があるかもしれませんね。
(サカナト編集部)