幻のカニといえば「間人ガニ」が挙げられますが、幻のエビとも呼ばれるエビはご存知でしょうか?
北海道から千葉県に分布する深海性のエビ「ブドウエビ」は、その希少性の高さから幻のエビとも評されます。
ではなぜ、幻のエビと呼ばれるようになったのでしょうか。
ブドウ色をしているから「ブドウエビ」
幻のエビと言われる「ブドウエビ」はエラバエビ科に属する甲殻類です。
本種は本科の中でも大きくなる種として知られ、体長は20センチ程になります。体色がブドウ色をしていることからブドウエビと呼ばれるようになったそうですが、標準和名はヒゴロモエビ(Pandalus coccinatus)です。
なお、タラバエビ科には標準和名がブドウエビ(Pandalopsis miyakei)の種も属しているので混同しないように注意が必要です。
幻のエビと呼ばれる理由は?
ヒゴロモエビはブドウエビのほかに「幻のエビ」と呼ばれます。本種が幻のエビと呼ばれる所以は、希少性と味の良さにあるのです。
ヒゴロモエビは北海道から千葉県の水深500~600メートルに生息する深海性のエビ。分布域は広いものの、漁獲量は少なく底引き網で少量漁獲される程度だそうです。
産地のひとつである北海道羅臼町では7月上旬~9月下旬に深場のエビを狙ったエビ籠漁がおこなわれており、ヒゴロモエビも少量ながら他の産地と比較するとまとまって漁獲されます。
エビ籠漁の特性上、エビを生きたまま漁獲することが可能であり、非常に鮮度の良いヒゴロモエビを市場へ搬入することができるのです。
また、このエビ籠漁では漁獲可能なエビの量が決まっており、これにはヒゴロモエビだけでなくボタンエビ、ナンバンエビも含まれます。
ヒゴロモエビは希少性が高いだけではありません。味も極上で非常に甘みが強いといいます。価格も非常に高くキロ単価は数万円にもなるようです。
羅臼で獲れたブドウエビは違う種類だった?
アクアマリンふくしまでは2004年より羅臼沖でサンプリングを行っており、その中にはヒゴロモエビ(Pandalus coccinatus)もいました。しかし、標本を調査した結果、ヒゴロモエビではなくPandalus spinosiorであることが判明。
本種は2000年に千島列島から得られた標本をもとに記載された種で、2015年に公表された「The occurrence of Pandalopsis spinosior Hanamura, Kohno & Sakaji, 2000 (Crustacea: Decapoda: Caridea: Pandalidae) in Hokkaido, northern Japan, and reassessment of its diagnostic characters」でラウスブドウエビという名が提唱されました。
ここで注意したいのは、ラウスブドウエビは2015年に新種記載された種ではなく、既知種であるPandalus spinosiorに標準和名を提唱した種であるということ。つまりラウスブドウエビは2015年に見つかった新種ではないのです。
幻のエビとも呼ばれるブドウエビ。近年は漁獲量が減っており、産地の1つである羅臼町では資源保護のため、昨年に続き今年のエビ籠漁を見合わせています(令和6年 ブドウエビ漁 休漁のお知らせ。-海鮮工房 羅臼漁業協同組合)。
ブドウエビを守っていくためにも、引き続き適切な資源管理が望まれています。
(サカナト編集部)