秋の風が冷たくなると、日本のスーパーのお魚コーナーには色鮮やかな「秋鮭」が華やかに並びます。
塩焼きやムニエルなど世界中様々な料理で愛されている鮭ですが、日本には知る人ぞ知る鮭の伝統料理があります。新潟県村上市の伝統、「塩引き鮭」です。
新潟県村上市で親しまれる「塩引き鮭」
米どころ新潟県の村上市を訪れると、秋の風物詩として独特な風景が見られます。民家の軒先に何本もの鮭が頭を下に吊るされ、風に揺れているのです。
この鮭こそが「塩引き鮭」です。
塩引き鮭とは、新潟県最北部に位置する村上市を中心に伝統的に作られている鮭料理です。
まずは、選び抜いた最高の秋鮭を7日から10日、長ければ3週間ほど塩漬けにします。そのあとに流水で塩を流し、鮭を綺麗に磨き上げ、丁度良い塩加減にします。最後に、尾を縄で縛り上げ、日本海の寒風にさらし干し上げたら、塩引き鮭ができあがります。
新潟県村上市の適度な低温と湿度、日本海の潮風が運ぶ塩分と乳酸菌が絶妙に組み合わさることで、鮭の酵素が働き、発酵・熟成し、旨味が凝縮され、極上の塩引き鮭ができあがります。
新巻鮭との違いは「発酵」
塩をして保存する鮭と聞くと、「新巻鮭」を思い浮かべる人も多いのではないでしょうか。
新巻鮭は「塩漬けにして冷凍保存した鮭」で、鮮度を保ち、とれたてのおいしさをそのままに長期保存できるため、北海道や東北でよく生産され、全国で広く食べられています。
新巻鮭は塩に漬け冷凍することで新鮮なままで保存することが美味しさの秘訣であるのに対し、塩引き鮭は塩につけ干し上げることで、低温発酵することが美味しさの秘訣です。
塩引き鮭の歴史は平安時代まで遡る
平安時代の書物には、村上の鮭が都に献上されていたことや、かつての新潟県にあたる越後国からの税は鮭であったこと、そして「塩引き鮭」の記述まで残っています。
越後国が都に納める物品として、楚割鮭(そわりさけ)、鮭内子(こごもり)が記録されています。
楚割鮭は雄の鮭の身を卸して、魚肉を細かく割り、塩をして干したもので、鮭内子は雌の鮭のはらこを塩漬けにして、腹に抱かせたものです。
どちらも塩引き鮭の製法で作られていたことから、この頃には既に塩引鮭の製法が確立していたといえます。
鮭への敬意
平安時代から人々に愛され、大切に食べられてきた塩引き鮭。味わいだけではなく、見た目に対しても、こだわりが詰まっています。
例えば止め腹は、お腹を開く際に、腹ビレ先で一度止め、一部をあえて残す切り方のことを言います。これは「切腹」を忌み嫌う、城下町特有のこだわりから生まれた手法です。
そして干し上げは、鮭を干す際に頭を下にして尾ビレを縄で縛る手法です。これには、大切な鮭に首吊りをさせるのは忍びないという思いが隠れているそう。
村上の風土と歴史を感じながら食べると、よりいっそう味わい深くなりそうです。秋冬のたのしみに「塩引き鮭」を取り寄せてみてはいかがでしょうか。
(サカナトライター:百葉)