鯨飯(くじらめし)という伝統的な郷土料理を知っていますか。
主に島根県西部の石見地方や山口県に伝わるクジラを使った混ぜご飯・炊き込みご飯のことで、「(大晦日に大きな生き物を食べて)大きな歳をとる」などにあやかる縁起担ぎとして食べられています。
節分に食べる<鯨飯>
鯨飯は、主に「節分の日」に食べられることが多いといいます。
節分とは、立春・立夏・立秋・立冬の前日を意味しており、日本でも太陰太陽暦(旧暦)を採用していた江戸時代までは立春の前後が正月(旧正月)でした。
節分といえば、現代では「豆撒きの日」というイメージが強いですが、これは宮中行事の追儺(ついな・おにやらい)が元とされ、風邪を引きやすい真冬、1年の変わり目に災いや病をもたらす疫鬼を追い払い、新しい年に春の陽気を迎えるという年越しの行事の名残なのです。
鯨飯が節分の日の食べ物なのは、この地域では旧暦を行事の基準として重んじる風習が残っているからと言えるのかもしれません。
大歳神に祈るのは意味がある?
鯨飯は「大きな歳をとる」「大物になる」というような縁起担ぎで食べられる料理です。
山陰地方西部のクジラ漁は主に江戸時代頃から盛んになり、漁期となる秋~冬に行商人が地域をまわり、クジラをまとめて購入して保存することで、冬場の食料にあてる習慣につながったようです。
さて、ここで言う「大きな歳」ですが、これは「大歳神(年神)」をさすものと考えられます。大歳神とは新しい年の豊作をもたらす来訪神とされていて、正月飾りをしたり鏡餅をお供えしたりするのは大歳神を迎えるための重要なセレモニーです。
他にも海岸や田んぼなどの広場で注連縄(しめなわ)や正月飾りなどをお焚き上げする「とんど焼き」は、正月に来訪した大歳神を送る儀式として知られます。また、「とんど」とは大歳神と習合している陰陽道の「歳徳神」からついた名前ともいわれています。
ちなみに歳徳神は恵方神ともいい、近年では「恵方巻」の風習で知った方が多いのではないかと思います。
大歳神は『古事記』に系譜だけが記載されている神様で、出雲に降った須佐之男命(スサノオノミコト)と神大市比売(カムオオイチヒメ)との間に生まれた国津神です。
事績は知られておらず、謎の多い神ですが、父と同じく出雲地方(島根県)にも何か縁があるのかもしれません。とするならば、鯨飯が山陰地方に伝わる伝統料理なのも、もしかしたら何か由来があったりするのかもしれませんね。
<鯨飯>をつくってみよう
鯨飯は炊き込みご飯と混ぜ飯のバリエーションがあり、主に白クジラ(皮目)を使うようです。
今回は農林水産省が収集している、次世代に伝えたい大切な味『うちの郷土料理』に掲載されている炊き込みご飯のレシピをご紹介します。
鯨飯の材料(4人前)
主な材料は米2合、白クジラ100グラム、ごぼう50グラム、人参50グラム、大根50グラム、こんにゃく50グラム。
味付けは醤油を大さじ1、酒を大さじ1、塩を小さじ1/2。
鯨飯の作り方
(1)白クジラを短冊形に切り、熱湯をかけて余分な油などを落としていきます。
(2)ごぼうはささがきにして水にさらし、人参とこんにゃくは細かく切り、大根は短冊に切ります。
(3)炊飯器に研いだ米、水、具材、味付けの調味料を入れて炊き上げます。
※出典:うちの郷土料理/農林水産省(https://www.maff.go.jp/j/keikaku/syokubunka/k_ryouri/search_menu/menu/kujiragohan_shimane.html)を加工して作成
一般的に鶏肉などでつくる炊き込みご飯をクジラで作るイメージですね。家庭でも簡単に作れますので、この冬はぜひ鯨飯に挑戦してみてはいかがでしょうか。
(サカナト編集部)