魚の名前を見た時にどう考えても意味の分からない単語や、由来の分からない単語が多く出てきます。
魚の名前を覚えるために単語の意味を理解することは非常に重要であり、その魚の特徴を捉えるヒントにもなります。
ここでは主に魚の名前に使われる単語の意味を解説します。
魚の名前に使用される”地理的な意味を表す単語”
魚の名前には地理的な意味を持った単語が含まれることがよくあります。
例えば「ミナミ」。かなりアバウトな単語ですが、これは近縁種と比較してより南に分布する種によく使われるものであり、ミナミクルマダイやミナミゴンズイ、ミナミメダカはこれに該当します。ほぼ同じような意味を持った単語に「ナンヨウ」や「ネッタイ」があり、ネッタイミノカサゴやナンヨウキンメなどに使用されています。
南があれば北を意味する単語もあります。近縁種と比較して北に分布する場合は頭に「キタ」が付きます。しかし、「キタ」では語呂が悪い場合もあるのか、キタノコロダラやキタノメダカのようにキタにノを付けた「キタノ」が使われることもあります。
詳細に地理的な分布を表した単語を使用した魚もいます。「リュウキュウ」はよく使われる単語であり、リュウキュウキビナゴやリュウキュウヤライイシモチなど琉球列島で見られる魚に使われます。ムロランギンポ(室蘭市)やカササハオコゼ(笠沙町)のように、さらに詳細な地名が使われる魚もいます。また、日本に生息する魚でもタイワンカマスの「タイワン」や、アラスカキチジの「アラスカ」のように海外の地名が使われることもあります。
地名を冠した名前を持つ魚でも、その地域のみで見られるという訳ではなく、他の地域でも見られることがあります。実際、リュウキュウヨロイアジもタイワンイカナゴも相模湾から採集されており、必ずしも琉球列島や台湾にしかいないという意味ではないのです。
学名にも地名が使われることが多くあり、採集された地名などその魚の研究にゆかりのある地域の名が使われることがあります。スルガホウネンエソ Polyipnus surugaensisやトサヒメコダ Chelidoperca tosaensisはよい例であり、それぞれ駿河湾と土佐湾にゆかりのある魚です。
魚の名前に使用される”深さを表す単語”
垂直的な分布を現す単語もよく使われます。
例えば、近縁種と比較して沖合に生息する場合には「オキ」が使われ、オキヒイラギやオキアナゴがこれにあたります。また、深場に生息する種には「ソコ」や「シンカイ」、「フカミ」が使われる傾向にあります。
ただし、例外もあります。2010年に新種記載されたコケギンポ科の魚にオキマツゲという種がいますが、この「オキ」は沖合の意味ではなく、採集された地が隠岐諸島であったことに由来します。
深場を現す単語は多く使用されるのに対して浅瀬を表す単語の使用は少なく、ホラアナゴ科のアサバホラアナゴなどのごく少数の魚種にしか使われません。ただし「イソ」も場合によっては浅瀬を表す単語かもしれません。
例えば、キホウボウ科のイソキホウボウはキホウボウ科の中では比較的浅い海である水深65メートルでの採集記録があります。ここで使われている「イソ」ですが、磯は岩の多い海岸を指す単語なので「磯=浅い」という意味があるのではないかと思われます。
魚の名前に使用される”大きさや体型を表す単語”
「オオ」はそのままの意味でオオニベやオオイカナゴなど、近縁種と比較して大きな種に使われます。
オオメハタなど眼が大きい種では「オオメ」、オオクチハマダイのように口が大きい種では「オオクチ」と付きます。ただし、眼が大きいことを表す場合には、メアジやメダイのように単に「メ」と付けるだけ場合も多くあります。
また、「オニ」は棘のある魚など厳つい魚に使われることが多いですが、大きいという意味合いもあると考えられます。「オオ」や「オニ」などとは反対の意味としてよく使われるのが「ヒメ」であり、ヒメキチジやヒメアンコウのように近縁種や似た魚に対して小さな種に使われます。また、「コ」や「チビ」、「チゴ」、「コガタ」も同じような意味で使われます。
体型を現す単語も多くあります。例えば、「ナガ」や「ホソ」は近縁種と比較して細長い体を持つ場合に使われます。それに対して寸詰まりな体を持つ魚には「ツマリ」や「ズングリ」が使われ、特に吻部が短い場合に「ツマリ」が使われます。
また、セダカギンポ、セイタカヒイラギのように体高がある魚の場合には「セダカ」、「セイタカ」が使われます。鰭の特徴も魚の名前から読み取ることができます。
例えば、鰭が長い魚には「ヒレナガ」や「イトヒキ」が使われ、特に胸鰭が長い場合には「テナガ」と付きます。また、背鰭高が高い種は「ホタテ」と付きますが、決して貝類のホタテではないので注意しましょう。
魚の名前に使用される”色彩を表す単語”
魚には縞模様を持つ種が多くおり、そのような種には「シマ」や「スジ」が付くことがあります。
魚の縞を語るうえで、横縞と縦縞の違いは欠かせません。魚における縞は頭部を上、尾鰭を下にして考えるため、通常の魚の向きとは逆に見えてしまう現象が起こるのです。したがってタテジマキンチャクダイの泳いでいる姿を見ると、どうみても横縞模様の魚ですが、頭部を上にして考えるためこれは縦縞として考えるのです。
反対にヨコシマサワラやヨコシマドンコは、一見すると縦縞模様に見えてしまいますが、先ほどと同様に頭を上にして考えるため横縞模様と考えます。
クロホシフエダイやクロホシイチモシのように目立った黒い円班を持つ魚には「ホシ」がよく使われます。また、不定形の黒班は「スミツキ」と表現されることが多いです。
魚の名前に使用される”似た魚に使われる単語”
「モドキ」、「ニセ」、「ダマシ」、「バケ」は近縁種によく似た場合に使われる単語で、特に「ニセ」と「モドキ」は多くの魚で使われるほか、「バケ」は大きいという意味でも使用されます。
なお、日本魚類学会の「魚類の標準和名の命名ガイドライン」では、「ニセ」や「ダマシ」に加え、小さいことを現す「チビ」などの負の印象を与える単語は、社会通念上の批判が多いことを留意するようにといった記述があります。また、過去には魚の標準和名に差別的な単語が使用されることがありましたが、現在はすべて改称されています。
このように魚の名前の意味を理解すると、現物と解釈が一致するため魚の名前も覚えやすくなります。意外な発見もあるので、気になった魚の名前は意味を調べてみると面白いかもしれません。
(サカナト編集部)