関西や瀬戸内海を中心に食べられているテンジクダイという小魚をご存じでしょうか？ 聞き慣れない名前の魚ですが、実は釣り人にとっては身近なあの魚の仲間でもあります。
今回はテンジクダイについてご紹介します。
テンジクダイとは
テンジクダイとはスズキ目テンジクダイ科ツマグロイシモチ属に属する海水魚で、大きさは10センチ程の小型種です。テンジクダイ科に属する魚は日本国内だけでも南方を中心に100種以上が記録されており、色彩が綺麗なことから観賞魚としても人気があります。
本種は銀色の体色と数本の黒い帯が特徴であり、ひれには目立った模様がないことで、よく似たツマグロイシモチやマトイシモチと見分けることが可能です。
テンジクダイ（提供：PhotoAC）
本種は日本各地の水深数メートルから100メートル前後までの砂泥底に生息しています。テンジクダイ科の中では珍しく食用として流通し、主に底引き網、定置網、釣りでの漁獲がほとんどです。産卵期は夏頃で、この時期は黄色味を帯び卵を持つテンジクダイを見ることができます。
そんなテンジクダイですが、通常の魚とは異なる少し変わった卵の育て方をします。
なんと本種を含むテンジクダイ科の魚は雄が口内で卵を保育する魚なのです。雄は卵が孵化するまでの期間、卵に新鮮な海水を供給しつつ卵を守ります。その一方で雄は口内保育中の卵を食べて栄養を取っていることも判明しており、非常に面白い生態を持った魚でもあるのです。
その他にもカワスズメ科の魚やナマズの仲間であるハマギギ科の魚が口内保育をする魚として知られています。
テンジクダイを食べる地域
テンジクダイは日本各地に分布しているものの、食用としている地域は多くはありません。主にテンジクダイを食べる地域は西日本が主で、瀬戸内海や大阪湾の底引き網や定置網で漁獲されたテンジクダイが食用になっています。
広島県ではテンジクダイを「ねぶと」または「めんぱち」と呼び、唐揚げや南蛮漬け、煮付けなので食べられています。特に「ねぶとの唐揚げ」は広島県の郷土料理としても知られており、酒のつまみとしても人気があるそうです。また、広島県と同様に瀬戸内海に面する岡山県では「いしもちじゃこ」とも呼ばれ、テンジクダイが唐揚げなど食べられています。この時、小魚だからといって丸ごと唐揚げにすると発達した耳石（体のバランスを保つための石状の器官）がガリガリするので頭部を取り除くのを忘れてはいけません。
なお、「いしもちじゃこ」の「いしもち」はこの耳石が非常に発達することに由来します。「いしもち」という呼び名は標準和名でもよく使われており、テンジクダイ科に属する多くの種で「いしもち」という単語が使われているのです。
さらに、テンジクダイは広島県の3市（福山市、三原市、尾道市）と岡山県笠岡市で水揚げされる魚のうち漁師さん1000人が選んだ美味しい水産物「備後フィッシュ」27種のうちの1種に認定されました。このことからテンジクダイがいかに瀬戸内海沿岸で愛されているのかが分りますね。
テンジクダイはあの魚の仲間
これまでテンジクダイという魚をご紹介してきましたが、実は釣り人がよく知るあの魚たちの仲間なのです。
それはネンブツダイやクロホシイシモチです。この2種はテンジクダイ同様にテンジクダイ科に属する魚で、釣り人ならば必ず知っていると言っていい程、よく釣られています。その一方でネンブツダイやクロホシイシモチを食べたことがある人は、それほど多くないでしょう。むしろ、口が大きく大きな針にも食い付いてきてしまうことや、餌を貪欲に食べてしまうことから外道として扱われてしまうことも少なくありません。
釣り人からは外道扱いの2種ですが、徳島県ではネンブツダイとクロホシイシモチを「赤じゃこ」と呼び、食用にしています。どちらの種も定置網で多獲され、煮干しに加工されて利用されます。
テンジクダイは一部地域でのみ食べられている魚ですが、その仲間であるネンブツダイやクロホシイシモチは比較的簡単に手に入れることができます。こういった小魚でも食べてみると非常に美味なので侮れません。
（サカナト編集部）
