ユカタハタを入手する
さて、このユカタハタはその美しい出で立ちから、私の「欲しいハタ科魚類リスト」の最上位に長いこと君臨していた種でもありましたが、高知県での釣りでも、長崎や京都の魚屋さんに頼ってもなかなか入手できない日が続いていたのです(ちなみに、現在はカスリハタとマホロバハタがその位置にいます)。
そんな中、2013年8月についに念願のユカタハタを入手する機会に恵まれたのでした。
高知県の某漁協にお伺いしたところ、極めて美しいユカタハタがセリにかけられていました。さらにユカタハタの別個体を含む複数の魚がセリにかけられているなど、比較的個体数が多い印象を受けました。
これらの個体を友人の市場関係者に競り落としてもらい入手。この際、入手した2匹のユカタハタを含む高知県産の色とりどりの美味しい魚を無事に自宅まで持ち帰ることができました。
帰宅後ユカタハタを撮影しながら、しばし眺める時間に。美しい色彩を堪能します。
赤色から暗色のグラデーションと、青く輝く斑点の美しさがたまりません。そして尾鰭は暗色なのですが、そこにも輝く青色斑が入り、美しいものでした。各鰭の斑点が美しいのですが、胸鰭(基部付近をのぞく)と腹鰭には青い斑点が入らないのが不思議です。
こちらは小さいほうのユカタハタで、標準体長で18センチメートルほど。オニカサゴなどほかの魚と一緒に購入しました。
一様に真っ赤で青い斑点が散らばっていますが、赤色から暗色のグラデーションがないせいか、どこか“おもちゃの魚”のようにもみえます。
青色も絵具で書いたみたいで、成魚のような輝きはありません。
ユカタハタの食と未来
ユカタハタはハタ科の魚であり、食用魚となります。
沖縄では数が多く「あかみーばい」という名前で売られているといいますが、筆者は沖縄の公設市場や鮮魚販売施設を何度も訪れているものの、一度も見たことがありません(コクハンハタやアオノメハタなどは市場で見たことがある)。
より大きなバラハタやスジアラのほうが見栄えがよいという理由もあるのかもしれませんが、『沖縄さかな図鑑』によればどうもユカタハタ属はマハタ属(この書籍ではアカハタ属もふくむ)に比べると身がやわらかく、味も劣るのだといいます。
しかし実際に刺身にして食べると美味しいものです。薄造りは絶品で、刺身醤油よりもポン酢のほうがよく合います。身はきれいな白身ですが、一部はピンク色にそまるというものでかなり美しいものです。
最近では、高知県の道の駅でユカタハタが販売されていることもあります。四国西部ではよく見られる種になりつつあるようで、筆者も数年に1回は食せる魚となりました。
また、近年は三重県や和歌山県でもある程度の漁獲量があり、関東地方でも見られるようになりました。
この手の魚は幼魚がかなり広い範囲で見られるものの、死滅回遊魚として従来は越冬できていませんでした。しかし、近年は温暖化やそれに関連する水温の上昇、海流の変化などにより越冬する個体も出てきているのかもしれません。
ただそれがよいことなのかどうかは分かりません。温帯性のハタであるキジハタやアオハタ、マハタ、そしてクエなどの魚に悪い影響を及ぼす可能性もあることを考慮すると、あまり喜ぶべきことではないと言えるのもしれません。
(サカナトライター:椎名まさと)
参考文献
Craig M.T. and P. A. Hastings. 2007. A molecular phylogeny of the groupers of the subfamily
Epinephelinae (Serranidae) with a revised classification of the Epinephelini. Ichthyol Res (2007) 54: 1?17.
DOI 10.1007/s10228-006-0367-x
久新健一郎・尼岡邦夫・仲谷一宏・井田 斉(1977)、インド洋の魚類、海洋水産資源開発センター
中坊徹次(2013)、日本産魚類検索 全種の同定 第三版、東海大学出版会
日本魚類学会編(1981)、日本産魚名大辞典、三省堂
下瀬 環(2021)、沖縄さかな図鑑、沖縄タイムス社
Smith M.M. and P.C. Heemstra (eds.) 1986. Smiths’ sea fishes. Springer-Verlag, Berlin.
上野輝彌・松浦啓一・藤井英一編(1983)、スリナム・ギアナ沖の魚類、海洋水産資源開発センター
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